ックは身をもって金銭という近代文学の一大主題を掴み、終生それについて労作しつづけたのであったが、作家として彼が生きた時代との関係もあって、その主題の歴史性は遂に見通し得ずに生涯を終った。従って、金銭をめぐっての、あのことこのこと、その諸関係が、並列的に現象の平等性をもってバルザックの作家的認識の世界に評価を求めて蝟集して来たのは実に自然な成行であったろうと推察される。バルザックは社会的現実を再現し、而もそれを金銭、利害の根源との相互関係において芸術に表現するためには、実に声をあげて群がり来る無数の印象を掻きわけ、観念ととり組みつつ、全く「自然が真裸になって、その真髄を示すのやむなきに至るまで、根気よく持ちこたえて」「そこまでゆくには」自身、ひとの数倍の汗を彼の有名な仕事着の下にかき、更に印刷工を苦しめなければならなかったのであろう。
 ブランデスが、非科学的であったと評し、今日の目で見れば極めてそれが自然発生的にされていたことが明瞭である創作の方法で、バルザック自身、自分の文体の独特性に対してもしかるべき確信は持ち得なかったらしい。苦しまずに、すらすらと整って美しい文章[#「美しい文章
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