せる。金銭の利害が人を支配するということをあれだけテーマとしている彼が。それだけに又「幻滅」ダヴィドとエーヴ、ポンスのような人物を描いたのだとも云える。そして決定的な一つのことを語っている。あらゆる大芸術家の重大な資質の一つは善良さと純潔な人間性であるということについて。
「二世紀(十五・六世紀、ルネッサンス)というものは権力に抗う人々が『自由意志』の怪しげな主義を築くために費された。更に二世紀(十七・八世紀)というものは、自由意志の第一段の必然帰結たる信仰の自由の発達を促すために費された。我々の世紀(十九世紀)はその第二段の必然帰結たる国民権《リベルテ・ポリチック》(普選)を築こうと試みているのである。」
「一八四〇年(ルイ・フィリップ)のフランスとは如何なる国であろうか。」
「われわれにとって国家なんていうものは――」
すべてが完成されたと云われるこの時代に、すべての名誉も何も金! 金! 金! そこで極端な辛辣さが知性にびまんした。節操を失った。
ジャン・ジャック・ルソーを嘲弄し、サン・シモンをせせら笑う。何ものも信じない。幻滅を通った七月革命後のフランスの堕落とバルザック。こういう彼が現代において「秩序ある社会を希望する人々」としてカトリーヌをあげている。
そういう社会をのぞみ、信義をもち得る社会を求める心からバルザックは反対党――共和党に対して王党となったのか。
ユーゴー(一八〇二―一八八五)は共和党であった。(一八四六年頃)そしてナポレオン三世の帝政布告に抗し二十年間亡命、一八七〇年普仏戦争による帝政崩壊後かえる。「レ・ミゼラブル」は亡命中。
バルザックとユーゴーとの大きい差は、ユーゴーは二つの対立物から更に一つを生み出す能力をもっていたが(ゴーヴァン)、バルザックは、二者のうち、そのいずれかといつも対立においてものを見た。そのために彼はその洞察の強烈さにかかわらず、いつもリアクショナルな立場[#「立場」に傍点]にいることになっている。衷心の希望は人間的であるのにかかわらず。
「現代史の裏面」
ベルナール氏、ヴァンダ、オーギュスト。バルザックはここでディケンズの真似をしている。不器用にしている。
ベルナール氏の娘への溺愛について、かくされた貧困について。
当時のイギリス文学がバルザックに与えた影響。
[#ここから2字
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング