撃デー」だ。
 ソヴェト同盟は五ヵ年計画で、役に立つものなら古桶の箍《たが》でもこねかえして機械にしてしまうという意気込みなんだ。
 信吉も一生懸命ホジっちゃ地べたへ古鋲や変な古金物の端をはじき出してるところへ、ブラリと煙草をまきながらグルズスキーがやって来た。
「……今日は鍛冶部へ牛乳が半コップだけしか渡んなかった……知ってるか?」
「それがどうしたよ」
 信吉は、額の汗を払いながら太い声出した。
「……見ろ。初めてだぜこの工場で。……農民は、だんだん労働者に食わせねえようになって来たんだ。奴等、怒ってるんだ。……二〇年の饑饉だってそこから起ったんだ」
 こいつ何故、俺をつらまえちゃこういうことを云うんだ? 信吉の腹ん中には、さっき自分の眼で見た鍛冶部の連中の態度がうちこまれてる。彼等はこういう風には、そのことを扱ってない。――「おいトッちゃん」
 信吉は立ち上ってグルズスキーの肩を両手で持ちクルリとあっちを向けた。そして指さした。
「あの人にそういうことァ云ってくれ!」
「……どの人よ」
「あの人ヨ」
 信吉はもうしゃがんで掘じくりながら笑ってる。
「……畜生!」
 グルズスキーはプーッと地べたへ唾して行っちまった。信吉は笑ってる。
 信吉が指さした広っぱの端れには、荷馬車からはなされた馬がいる。馬は糞をしてる。
 燦く碧空で、屑の中から有用なものを掘り出してる無数の人間の上で、飛行機のプロペラが唸ってる。――

        二

 全露共産党中央委員会書記が「プラウダ」に報告を書いた。
 何故ソヴェト同盟には食糧困難があるか? なるほどソヴェト農民が昔は食わずに売っていたバタや肉・卵を自分のところでも食うようになって来た。だが、農村のそういう生活向上は、解放されたプロレタリアート国家として非難すべきことだろうか? 否。実によろこぶべき事実だ。
 ソヴェト全同盟の労働者農民の営養はもっともっと高められなければならない。
 五ヵ年計画はこの領域にも手をのばし、農産物の増加と価格の低下で、現在一人当り四九・一キログラムの肉類の消費を六二・七キログラムに、九〇・七個ずつ食われる卵の数は一五五個に。二一八キログラムの牛乳製品は三三九キログラムに、それぞれ高めようとしているのだ。
 現在の肉類の欠乏は、五ヵ年計画のはじめ、集団農場化が行われるとき、階級的意識の低い中農
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