切れねえ。
信吉は思った。古くッからいる者だけが書きゃいいんだ。年の小さいピオニェールは、信吉にことわられて困った顔をしていたが、
「冗談じゃなくサア」
と云った。
「書くだろ? いくら?」
しつっこい。そう思った拍子に、
「俺らロシア人じゃねえ!」
※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
小さいピオニェールは、瞬間平手うちをくったような顔になって信吉を見てたが、ハッキリ一言、
「――お前、プロレタリアートじゃないってのか?」
ちょいと肩をゆすり、一人前の労働者みたいな大股な歩きつきで、行っちまった。
チェッ! 低い舌うちをして、信吉はやけに頭をかいた。何だか負けた感じだ。
なんだ! つい横じゃ、信吉の台から廻す締金の先へ手鑢をかけてるオーリャまで、こっち見て奇麗な白い歯だして笑ってる。
信吉はムッツリして働き出した。
暫くすると、
「気にするこたねえ」
グルズスキーが顔は仕事台へ正面向けたまんま小声で慰めるように云った。
「食堂にかかってる表《ひょう》へみんなが好きで名を書きこんだか?――決してそうじゃねえ。スターリンは、公債を買う買わないは自由意志だって新聞で云ってるが、工場委員会の連中が、見張ってやがるんだ。……それにこの工場じゃ、もう一まわりすんでるんだ」
コソコソ声で、グルズスキーがそんなこと云うんで信吉はなお気が腐った。
ボーが鳴った。
工場へ入って初めていやにはずまない気分で信吉が仕事場を出かけたらオーリャが、
「ちょいと! シンキーチ!」
後からおっかけて来た。工場学校をすまして信吉と前後して職場へ入って来たばかりの婦人旋盤工だ。
「見たよ」
人さし指を立てて信吉を脅かすようなふりをしながら、ハハハと笑った。
「…………」
苦笑いして信吉はそっぽ向いた。
「お前、クラブへ行った?」
「いいや」
「じゃ来ない? いいもん見せてやるわ」
木工部の横をぬけ、トロの線路を越して、花壇の方からクラブへ入ってった。
昼休みは、若い連中で賑やかだ。
運動部の室からフットボールを抱えて出て行く。開けっぱなしにした戸からチャラチャラ、幾挺ものマンドリンが練習している音がする。
赤い布をかけた高い台にレーニンの胸像が飾ってある入口の広間へ来ると、
「ほら! 見た?」
壁新聞の前へオーリャは信吉をひっぱってった。
「こりゃ、誰れ?」
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