り、将来、社会主義的社会をますます完成させて行くためには、どんなに次の時代というものに注意を払っているか分らない。
 革命以来、ソヴェト同盟は、あらゆる法律の力で、生れて来る赤坊の生存権を保護して来た。たとえば、姙娠している労働婦人は出産前後四ヵ月の有給休暇を貰う。出産のための産院は無料だ。赤坊のキモノや何かのための支度金を二十五ルーブリから三十五ルーブリぐらいまで貰い、出産後九ヵ月間は特別に赤坊の哺育料を貰う。「母と子の相談所」と託児所はあらゆる区に配置されている。そして労働法は生後十ヵ月までの子をもつ母親の解雇、姙娠五ヵ月以上の女の解雇をごくごくやむを得ない場合以外は厳禁している。
 小学校、工場附属技術学校、いずれも国庫および職業組合の負担で、プロレタリアートの児童のために開放されている。
 特にピオニェールは、プロレタリア階級の前衛として社会主義社会建設と拡大とのために必要なあらゆる注意のもとに教育されつつあるのだ。
 教育は、決して学校の教室においてばかりされるものではない。それはブルジョアの親方でもよく知っていることだ。ゆえに、革命までの冷いロシアはどうであったか?
 黒い裾をひきずって、長い髪をたらした坊主が、小学校、中学校の教室を初めとして、家庭の内へまでやって来た。そして、十字架を握った冷っこい手を子供の唇へ押しつけて、こわい声でいった。
 ――お前、この世で一番偉い方は誰だか知っているか。
 ――神さまです。
 ――その次には?
 子供は坊主の赤い鼻を見上げて機械的に答える。
 ――ツァー(皇帝)です。
 ――よし。お前は先ず神のおっしゃることを、即ちツァーのおっしゃることに、絶対に服従しなければならぬ。よいか?
 ――ええ。
 坊主は、子供の頭に十字を切ってやって、いう。「神|爾《なんじ》とともに在れ!」
 ブルジョアは自分達の劇場をもっていた。自分達の絵画館をもっていた。働く人間、彼らのいわゆる「黒い町」の住人どもに与えられているのは、ブルジョア国家がその税で富むところの火酒《ウォトカ》と教会と無智であった。(労働者農民の子は大学に入れなかった。兵役につけば終身兵士以上にはなれなかった)。そしてもちろん、ブルジョアが美しい馬にひかせた橇で雪をけたててやって来る劇場へは、入るどころではなかった。(侯爵であったクロポトキンでさえ、学生の制服姿のと
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