しりした肩つきだ。若いの、中年の、いれまじった顔は、どれも自分たちの思考力を鉛筆の先へつかまえておくために本気である。
地味な、断髪の女が机と机との間をしずかに歩いている。肩ごしに女たちの手帳をのぞき、時々必要な注意を与えている。日本女のすぐそばまで来た時、二十七八の女の手帳をのぞき低い声で、
――これは間違ってる。
注意を与えた。
――これは質問です。あんたが書かなけりゃならないのは、これの答えです。
いわれた女は、ちょいと顎を出して、大きく合点した。そして顔を赤くした。
ソヴェト・ロシアにおいては、さっき三階の、ローザ・ルクセンブルグの肖像画のかかった室で、婦人党員が説明したように、実践をとおして獲得した女の公民権を十分に行使する者の率が年々素晴らしく増して来た。たとえば農村においてさえ、ソヴェト選挙のとき活動する女の率が、
一九二四年 二五パーセント
一九二五年 三十パーセント
一九二六年 七十三パーセント
という飛躍ぶりだ。農村ソヴェトの指導的位置について働いている女さえすでに数千人いる。СССРが、農村の集団化、集団農場を中心として社会主義的建て直しをやろうとしている時、農村ソヴェトの進退は、重大な意味をもっている。その農村ソヴェト選挙に当って活動する農村の女が、では農村ソヴェトの実際的な使命をどう理解しているかということが、従ってまた重大な関係を持っているのは当然である。
帝政時代、農村の女はひどく暮した。今、彼女らは解放された。しかし、社会主義社会建設のための任務を、十人が十人同じように理解しているだろうか。そうだとは決していえぬ。
そこで、スモーリヌイのレーニングラード・ソヴェト婦人部は文化部の事業として、この農村ソヴェト選挙準備のための夏期講習会を組織した。
期間。二ヵ月。
課目。ソヴェト政権とはなにか。世界の経済。党史。数学。ロシア語。
今ここで、勉強している農婦、妻であり、母である彼女たちは、講習をすまして田舎へかえれば、それぞれの村で直接、農村ソヴェトに関する活動の指導者として働かなければならないのだ。
いつの間にか入って来て、日本女のうしろに立っていた、若い、麻の仕事着をきた女が小さい声でいった。
――この中には現に村ソヴェトの書記をしているひともあるんです。……みんな遠いところか
前へ
次へ
全27ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング