キュリー夫妻が永年の間憧れている設備のいい実験室さえ何の苦もなく持つことが出来るでしょう。それらのことは、彼等のこれまでの辛苦に対して当然のむくいではないのでしょうか。マリヤは静に金儲けのことや物質上の報酬のことを考えた揚句、こう云いました。「私たちの発見に商業的な未来があるとしてもそれは一つの偶然で、それを私たちが利用するという法はありません。」ラジウムが病人を治す役に立つからと云って、そこから儲けることなどマリヤには思いも及ばないことであったのです。ピエールとマリヤは科学者としての彼等の後半生の方向をきめたこの重大な相談に、僅十五分を費したきりでした。夫妻がノーベル賞を授与された祝賀会の講演で次のようにのべたピエールの言葉こそ、キュリー夫妻を不滅にした科学の栄光であると思います。「私は人間が新しい発見から悪よりも寧ろ善をひき出すと考える者の一人であります」と。
[#地付き]〔一九三九年十二月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「少女の友」
1939(昭
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