有様を次のように描いています。「やがてどこからとなく単調な合唱がいつまでも聞えて来る。それはラテン語の詩句や、歴史の年代、或いは数学の与件を、大声で云って見ずにはいられない子供たちの声なのである」その騒々しいなかでも、一旦或ることに注意をあつめたら最後、マーニャの気を外へ散らすということは、どんないたずら巧者の姉たちの腕にも叶うことでありませんでした。大テーブルに向って、両肱をついて両手を額に当て、まわりのうるささをふせぐために拇指で耳をふさいで、マリヤが何かはじめたら、もう彼女の頭脳は吸いこむように働きはじめ、驚くばかりの記憶力のなかへそれをたたみ込むのでした。女学生時代の写真を見ると、マーニャは大変お父さん似です。小さめなきりっとした愛らしい口元も、真面目に正面を見ている力のこもった眼差も。ふっくりした朗かな顔だち、真摯な誠実さのあらわれている風貌などお父さんそっくりです。金メダルを賞に貰って、マリアは女学校を卒業しました。が、その頃から益々切りつまって来た一家の経済のため、スクロドフスキーの娘たちは夫々自活の道を立てなければならなくなって、十六歳半の若いマーニャも苦しい家庭教師と
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