全世界のプロレタリア団結せよ。」宣言の簡潔な力強い文章のなかに、エンゲルスとマルクスとがその時までになしとげた、あらゆる科学的研究の結果が具体化されていた。
 第一回ロンドン大会にマルクスが出席出来なかったのは簡単で絶対な一つの理由によった。旅費の工面が出来なかったのである。この窮乏のうちにイエニーは長男の母となった。(エドガーと名づけられた男の子は八歳で夭折した。)
 ブルッセルで、エンゲルスがマルクス家の隣に住んで共に働くようになった。エンゲルスと共に終生変らぬマルクス夫妻の仲間となったワイデマイヤーとの交際もはじまった。イエニーはすべての友人たちのよい女友であり母であった。
 一八四五年にカールは、ベルギー政府とプロシヤ政府連合の追放政策から自身を守るためにプロシヤの国籍から離脱した。故郷なき一家となった。優しい夫であったカールは、二人の幼な子をもつイエニーとこのことについてもよく話しあったことだろう。カールの仕事の歴史における価値を感じ、一家のゆくてにすべての変転を覚悟しているイエニーは、カールの相談を理解しその処置に賛成しただろう。けれども子供達の将来を思い、いまはもう故郷で
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