、おかっぱを活溌にふりながら、自習時間がやかましいことや、自治に対してみんなが無責任だ。いたずらに外套をかくしたり本をかくしたりする者もある。(大学寄宿舎は男女学生一緒。室だけきっちり分れてる。)我々はそんな子供なのか? というようなことを話したのだ。ターニャも学生委員(衛生部)の一人なんだ。
――ワーニカは批判能力がないんだ。
チリチリこまかにちぢれた髪のイリーナが、賢い皮肉な笑顔で云った。
――ターニャの話したことは、もう陳腐な古くさいことよ。誰だって知ってる!
――俺はイリーナを支持するよ。
――何ガーガー云うのさ。
のどまで、灰色のスウェーターをきっちり着こんだマルーシャが一段高い声で云った。
――これは規律の問題より、むしろ空間の問題さ!
マルーシャは、みんなより年上だ。寄宿舎で、彼女は一室貰い、結婚してガリツェルという、やっぱり経・法の学生と暮してる。
――そうだ! 断然空間の問題さ!
誰か、うしろから大きな声で云った。
――我々が一室に二十人いるとき、或るものはたった二人でそこを占領してるという事実は、空間の問題を呈出するよ。
彼等は笑いながら、ぞろぞろ二階の教室へのぼってった。教授はまだ出て来ない。喋ってると、
――一寸、しずかにして下さい!
席から立ち上って、ナデージュダが云った。
――私は壁新聞の責任者として云いますが、この頃、何故だかみんなの投書がへりました。どうか奮って投書して下さい。
――氷滑りで時間がないんだ。
鉛筆をけずりながら、大人っぽい声でドゥーシャがやりかえした。
――氷滑りにだって階級性はありますよ。
ワーニカとターニャは並んでかけてる。ワーニカはしかしターニャと別に喋くらない。ぺちゃぺちゃやってるのは、ターニャと同じ小学校からやって来たイワンだ。
イワンは技師の息子で、みんなの間に有名な一つの病気をもっている。それは、学生委員会であろうが、昨夜のような集会であろうが自分が鼻をつっこめるだけの場所で、誰か一寸余分に拍手された話し手があると、きっと次の日は一日それにくっついて歩くのだ。
イワンは、下らないことを喋りゃしない。今もターニャにアメリカ経済恐慌で、フォード自動車はどれだけ生産を縮小したかということを喋くっている。
イワンは皆の知ってることしか知らないのだが、数字だけは特別出来な
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