とのちがいをもう一度改めて考えて行くのに役立つように今月は原稿を整理して行って見ます。
  一、職場の日記  牧美耶子
 これが送られた原稿の中では一番報告文学に近づいたものです。この筆者が、過去二年の間に段々うつりかわって今日に到った働く人たちの食物の状態について、もっと深い注意を向けて書いて見たら、きっと立派な記録が出来ただろうと思います。これからでもいいから、試みられることをすすめます。たとえば、これから半年の間に、どんな食物がどんなに増したり減ったり調理を工夫されたか、よろこんで食べられたか或はそうでないかということを注意して見るのです。「お昼は栄養を考慮したお菜ですが近頃では国策に応じて代用食や節米料理が多いようです」とだけかかれている部分に、実際どんなものが食べられているかということが書かれたらよかったと思います。
 生活に対するちゃんとした態度や女らしさというものの表現も自分の働く職場の性質と結びあって、こういう具体的な内容と活動性をゆたかにしてゆくのが、明日の若い女性の逞しさでしょう。
  一、保姆の手記  牧野幸子
 いくらか感想文の調子の流れこんだ報告文学であると思います。働く母たちとその子への情愛はよく汲みとれますが、ルポルタージュとすると、朝七時出勤してから、その母たちが何時と何時に何分ずつ授乳の時間をもっているか、赤坊たちの発育の状態はどうであるか、この頃の生活条件でお母さんたちのお乳はどう影響したかというような点が観られなければならないと思います。母たちの給料について、これだけの感じが持たれているのならば、そのことも。この文章の中でのように表現されていると、やはり感想文に近づいてしまいます。ルポルタージュでは、男|幾何《いくら》、女幾何と明瞭に書かれた方がいいのです。それが根拠で筆者の感想も湧くのですから。更に読者が、それによって自分たちが働いて得ている給料や働きの条件について考えるきっかけを得るのですから。
  一、生活の設計  永井みどり
 どこやら小品文めいた調子をもっています。けれども、この頃誰彼なしに「生めよ、ふやせよ」と云われているような風潮に対して、子供を持つことの出来ない女性たちも何かの意味で社会の役に立ちたいと希う心持が語られているので、目にとまります。
 これまでは、このルポルタージュの投稿の中に、必ず一つや二つは療養
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