だ家から果物やジャムなんかを持って来ることは随意というわけで、入院産婦への見舞受付口には亭主らしい数人の男と七八人の籠を腕にかけた女連が立っている。
炊事場の取締りをやっている肥った小母さんが自分を見て、
「どうです? われわれの産院は?」
それから満足そうに笑いながらつけ足した。
「御馳走を一つたべて見ませんか?」
コンクリートの廊下を戻って来ると、一つの室のドアが開けっぱなしになっている。窓から射す明るみの中でパッと赤い布をかけたテーブルが浮立っている。
「ああ、これがここに働くもののクラブです」
本棚がある。小説類、レーニン論文集、生理医学等の本がギッシリつまっている。
「すべての勤労者に知識と健康とを!」
絵入りの手書壁新聞が貼られている。幾列も並んでいる長い卓子の一隅で、若い看護婦が帳面に何か書いている。われわれが入って行った時、一寸頭をあげて見たきり、邪魔されず、落付いて書きつづけている。――
「クララ・ツェトキンの名による産院」の表口を出て、今度は電車にのらず自分は一種の亢奮を感じながら暮がたの街を歩いた。
この産院の一つでもいい。ブルジョア社会の中で無限な生
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