の科学[#「科学」に傍点]との取組みは案外早く終りを告げた。小学教師の試験を受けるにゴーリキイはまだ若すぎることがわかったのであった。
ところで、この朝、この「過ぎ去った人々や未来の人々の騒々しい植民地」の一隅に変ったことが起った。そこの住人であった一人の廃兵と労働者とが憲兵に引っぱられた。プレットニョフはこのことを知ると、興奮してゴーリキイに叫んだ。
「おい! マキシム、畜生! 走ってけ、兄弟、早く!」
ゴーリキイは、合図の言葉を知らされて、「燕のように迅く」或る場末町へ走って行った。そこは小さな銅器工の仕事場であった。そこには異様に青い眼をもった縮毛の男がいた。ゴーリキイは、社会の下積の者の炯眼で、一目でこれが真実の労働者ではないことを観破したのであった。
この端緒から、当時のカザンに於ける急進的な学生、インテリゲンツィアとゴーリキイとの接触がはじまった。ゴーリキイは、墓場の濃い灌木の茂みの中でもたれる彼等の集りにいった。すると、彼等は波止場稼ぎの若者であるゴーリキイが「何を読んだかということを厳重に問いただした上で」彼等の研究会でゴーリキイも勉強するように決定した。そこでは
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