その他大衆の散歩で賑やかだ。並木道にも音楽堂があって、労働者音楽団の奏する音楽が遠くまで、夜おそくまで聞える。
 ソヴェト同盟はひろい国だ。北と南との端では気候がまるきり違う。モスクワ辺は、五月下旬から九月までが夏で、あと短い雨の多い秋からすぐ半年の冬に入るから、夏の楽しみようは、想像以上なんだ。
 ところで、ソヴェトの労働者は、年一ヵ月の有給休暇を貰う。
 有名な海岸、温泉場、山の避暑地に昔ブルジョアが建てた立派な別荘、宮殿がある。それが今は勤労者のための「休みの家」になっている。結核療養所になってるところもある。
 各工場は、職業組合を通して、めいめい自分たちの「休みの家」を何処かしらに持っている。
 職場の連中は、順にその組合の「休みの家」へ出かける。大抵無料だ。けれども、「休みの家」が満員で、順がおそい連中は行けないという場合には「休みのために」或る額の金をくれる。それで、勝手にどっかへ出かけてノーノー一ヵ月休んで来るという仕組みだ。
 夏になると、ロシアじゅうのステーションと列車とは、この休暇連中で埋まっちまう。
「君はどこまで行くのかね?」
「俺はコーカサスの『休みの家』だ。――お前は?」
「我々は見学だヨ。スターリングラードの耕作トラクトル工場見学に行って、ずうっとドンの炭山まで視察だ」
 見学団も各工場から出る。新しいソヴェトがどんないい工場を持ってるか、集団農場、国営農場はどんなにやっているか、都会の工場からの代表が一大隊繰り出すのにもよく出逢う。
 父親や兄が職場からそうして珍らしいところを見学しながら休む時、子供連は、ではどうしてるか?
 区の林間学校とピオニェールの夏の野営というものが、ちゃんと子供のために手をひろげて待っている。
 親の給料の額によって、有料、無料。とり扱いは全く同一だ。五六十人から五六百人までの男の子、女の子、プロレタリアート闘士の交代者たちが、景色のいい林の間、森や野の中で、これも一ヵ月、勉強し、遊び、働いて来るのだ。
 だから実に晴れ晴れとして希望にみちた会話がソヴェトの夏の職場ではとり交わされる。
「おい、お前の休みはいつからだ」
「俺は八月にくれるように工場委員会へたのんで来たよ。女房の奴、『赤いローザ』にいるんだが八月にあっちは貰えるんだそうだ。一緒に貰いたいと思ってね」
「へえ、うまくやるね。俺んところじゃ、ま
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