人が勢よく出入する。わきのガラス大戸の上に、今日もきのうも、赤いプラカートが翻っている。何かの祝祭か? そうじゃない。プラカートには書いてある。「われ等のところで機能清掃が行われている!」
「十月」に勝利した当時、プロレタリアートの技術は低かった。いろんな役人、技師、教授が、古い陣営の中から来ている。この重大な社会主義再建設期に、有害な妨害分子が巣食ってはいないか? とそのための掃除だ。
 春、集団農場中央や党の宣伝部から派遣されたコムソモーレツ、専門家たちは、彼等を支持する貧農中農らの働く耕地の泥にまびれながら、富農とその一味との激しい階級闘争を闘った。それは、かけねなしの「農村の十月」だった。或るコムソモーレツは、村の富農に窓越しに射撃されて即死した。
 或る村で、積極的な集団農場組織者だった村ソヴェトの役員が、或る日中央からの党員と、管内巡察に出かけた。森にかかった。いきなり道ばたの数丈もある杉の木が彼等ののってる荷馬車の上へ倒れかかって来た。ソヴェトに忠実な二人の活動家は圧死した。杉が倒れたのじゃなかった。その木のかげにいた三人の富農に倒されたのだった。そのほか麦穀倉庫への放火。等々。
 富農は財産を没収され、或るものは村から追放された。或るものは、コムソモールを殺した銃で自殺した。
「サラフキへ行かないのかい? まだ。――」
 冗談も、一九二九年には変った。サラフキというのは不正なことをしていた技師などが頻々と送られる労働植民地の名だ。
 復活祭・降誕祭は、反宗教宣伝の日となり、クレムリンの外壁にあった辻堂などもとりはらわれた。
 本屋の店頭は、五ヵ年計画に関するパンフレットの洪水だ。
 プロレタリアートの党と政府とは、飛び散る階級闘争の火花の間で、率直にボルシェビキらしく告白している。
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国家は金がいる。君等の余分な一|哥《カペイカ》を! 社会主義建設のために※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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 貯金と五ヵ年計画公債への召集だ。
 職場のウダールニク達が、汗の中から大衆へ呼びかけた。
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プロレタリアートの技術を高めろ! 技術家と熟練工の部隊をプロレタリアートの中から出せ!
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 一九二九年に、十月革命以来教育人民委員長をしていたルナチ
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