書くことも知らず、辛い心の訴えどころがないので、つい坊主にだまされ、一生喜捨をまき上げられる有様だったのです。
 都会の勤労婦人の生活だって決してこれにまさったものではなかった。亭主はよくのんだくれる。そして女房を殴る。工場ではどうかというと、男と同じに汗水たらして働くのに、賃銀は半分ぐらいしか取れぬ。子供を腹にかかえても、休めば工場をクビにされるから無理押しに働きに出る。そういう勤労婦人が仕事台の下へぶっ倒れて赤ん坊を生み落すのは昔のロシアでは珍らしい出来事ではなかったのです。
 赤ん坊を生んだって、ブルジョアの工場は休みをくれない。子をなすのはお前の勝手だ。工場の知ったことか。働かすためにお前を雇っているのだというから、また翌日からフラフラの体を押して働きに出る。亭主だって僅の賃銀をもらい、しかも酒を飲むから、女房が働かなければ口がすごせない。
 工場へ赤ん坊はつれて行けないから、四つ五つの上の子に守をさせる。乳をのまされないから牛乳をあてがうが、赤ん坊の守をしている子は小さい。きっちり時間でなんか飲まされない。おむつもかえない。そんな有様で、どうしてかよわい赤ん坊は丈夫に育つでし
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