た新聞の第一面に、なるほど大きくクララ・ツェトキンの写真がでている。「国際婦人デーについて」という長い論文ものっている。
『プラウダ』ばかりでなく、ソヴェト同盟でだしているすべての新聞が、今朝は婦人デー特輯なのだ。
 並木道を工場の方へ曲ると、工場の正門に赤旗がいきいきはためいている。托児所の煉瓦の建物の窓も、赤旗である。
 続々とやってくる婦人労働者たちは、みんな勇んでその門を入って行く。五ヵ年計画がはじまってから誰でも七時間労働だが、今日は特別である。婦人労働者だけは全体に一時間早く仕事をきりあげる日なのだ。

 職場では、もう仕事着に着かえたオーリャが、壁新聞の前に立って、みんなに大きな声を出して、今年の国際婦人デーがどんな意味をもっているかという小さい論文を読んでやっている。
 ニーナは、かたまりの後に立って、注意ぶかく耳をすました。
 今年の婦人デーは、ソヴェト同盟の労働婦人全体にとって、これまでとはまた違う大切な意味をもっている。それは、五ヵ年計画完成の最後の重大な年であるとともに、このソヴェト同盟のプロレタリアの勝利を憎んで、ブルジョア、地主の国はさかんに反ソヴェト戦争の仕度をやっている。
 どのブルジョア国でもゆきづまった資本家どもは死物狂いになって、極力、労働者・農民の反抗を根こそぎにぶっ潰そうとかかっている。このファッシズムと闘って、たとえばドイツではこの十ヵ月間に十一万人の労働者が投獄された。負傷者はおよそ二十三万、死刑八百十三人という狂気のようなファシストの弾圧のなかを恐れず婦人労働者は、真のプロレタリア解放とソヴェト同盟を守れ! と叫んで闘っている。
 ソヴェト同盟の婦人労働者はどんなことがあっても五ヵ年計画を四年でやりとげなければならない。そして帝国主義戦争に絶対反対、ファッシズム絶対反対を叫ぶ世界の姉妹と団結し、最後の戦いをともに戦うプロレタリアの新な誓いと決意の日なのである。オーリャが読み終ると、赤い布で白髪をつつみ、腕組をしたままじっと聞いていた六十八歳のアガーシャ小母さんがつよい声で云った。
「見ていろ! 世界のプロレタリアはどうしたって勝たずにはいないんだ。わたし達は元この工場でどんな具合に搾られていた?――それが今はどうだろう!」
 アガーシャ小母さんは、革命前からもう三十五年もこの煙草工場で働いている。臨月まで働いていて工場
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