話が、集団農場組織の問題が、あらゆるソヴェト市民の関心事となったのはいつからだ? 一九二八年末からだ。生産能率増進のためのウダールニクが各工場役所の内部に組織され、それに参加した各員が、てんでんの場所で反革命分子との激しい闘争の経験をもつようになったのはいつからだ? 矢張り一九二八・九年からだ。
ソヴェトの劇場で、程度の差こそあれ、この新しい生活を反映していないものはない。一九三〇年の上演目録はひどく変ったよ。三年前とくらべると。
――……。社会的生活と芸術とががっちり歩調を合わせて、進もうとしているわけだな。
――だからね、例えば一九三〇年の春は愉快な美しい光景があったよ。春だ。キラキラ日が照りだして雪がとけはじめた。モスクワを中心とする黒土地方一帯、ヴォルガ地方、シベリア、北コーカサス地方。そこいらじゅうの集団農場では春の蒔つけ時だ。都会の工場から農村手伝いの篤志労働団が、長靴をはいて、麻袋を背負って特別列車にのっかって、八方へひろがった。
同時に、芸術篤志団、劇場労働篤志団が組織された。耕作用トラクターと一緒にひろいソヴェト全土に文化の光をまき散らそうというわけだ。作家、画家、映画労働者、劇場労働者、みんな出かけたが、技術家揃いだから、自分たちの乗って行く列車だって無駄にはしない。三等列車の外っ側を、溌溂たるプラカートや、絵で装飾して、所謂宣伝列車を仕立てて何百露里というところをころがって行った。
集団農場にはクラブがある。そこで人形芝居、即興劇その他で、刻下の社会的問題を芸術化して農民に見せるのだ。同時に、農村ではどんな芝居がよろこばれ、要求されているかということを専門的な立場から研究する。
――聞いているだけでも一寸わるくないな。儲けばっかり考えている会社につかわれて映画をつくったり、芝居しているのとはちがいがひどすぎる。だが、検閲はどうだい? 喧しいんだろう? 築地の左翼劇場では、警官が出張して台本と首っ引で坐っているよ。あの通りを行ってるんじゃないか? それに近いような噂だぜ。
――……実にデマが利いているんだなあ。
――嘘かい?
――ソヴェトのプロレタリアートや彼等の党は偏執狂じゃないよ。あらゆる人間の才能を十分発揮させようとしているのだ。ただ、ソヴェトは今特殊な歴史的過程を生きつつある。
緊張した社会主義建設期にある。終
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