ころが、ドイツはブルジョアの天下ですからね。あなたの国日本とおなじように、ソヴェト同盟のピオニェールたちが自分の国へ出かけて来て、元気なソヴェト同盟の生活ぶりを話すのを、いやがったんです。入国許可をソヴェト同盟のピオニェールだけによこさないんです。
 ソヴェトのピオニェールは一寸はガッカリしたけれど、ナニ糞! と思ってね。ドイツへは行けなくったって、ちゃんと世界ピオニェール大会は記念してやることを考えついたんです」
 そして、この野営地にいる五百人のピオニェールたちは、「世界ピオニェール大会」についての集団遊戯を考えだした。
 このきれいなひろい池のあっち側はブルジョア国。こっち側は、ソヴェト同盟。まず、広い野営地を、そう二つにわけた。
 ブルジョア国では、国境に見張りをおいて、自分の国の中のピオニェールがソヴェト同盟へ行かないように、ソヴェトのピオニェールと連絡をとらないように番をしている。
 だが、ソヴェトのピオニェールは、世界の同志となんとかして手を握ろうとするし、ブルジョア国のピオニェールがそれを望んでいることは、もちろんだ。
 そこで、夜、見張りの目をかすめ、丘を越し、林をぬけて、ソヴェト側とブルジョア国のピオニェールとが忍び合い、いろんな手順を相談する。
 幾日もかかって相談した。
 そして、いよいよすっかり相談がまとまったとき、ソヴェト側のピオニェールは、勢盛んにブルジョア国へ侵入した。ブルジョア国の内では、きめた手順でピオニェールが待っている。
 ソラ! ソヴェト側がやって来たぞ! 合図といっしょに立ちあがり、ソヴェトのピオニェールと力をあわせてやるぞ、やるぞ! さんざんブルジョアをやっつけて、到頭、自分のところへもソヴェト政府をこしらえてしまった。
「遊戯は、そこでおしまいになったんです。でも、もうブルジョアとの戦いときたら、スゴイ勢でね。大人がハラハラするようでしたよ。本気なんです。とても……」
 ふふーん。と自分は感心した。
 どこの国の子供だって、戦さごっこはやる。けれども、これは、さすがにソヴェトのピオニェールの戦さごっこだ。ガキ大将にくっついて、ヤーッ、チャンチャン、バラバラ、とやるんじゃない。役割をきめ、組織をきめ、しかも一日ではない、幾日もかかって、世界の革命[#「革命」に「××」の注記]を題にし、みんな自分たちの考えだけで遊びをやりとげるところは感心だ。
 どうだ。日本の小さい同志。ひとつ、まけずに、こっちでも、ためになる、真面目な、集団遊戯を考えようではないか。[#地付き]〔一九三一年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「ショーネン・センキ」
   1931(昭和6)年5月1日 復刊第1号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
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