とは根本的に性質が違う。だから恋愛の自由とか、家庭における女の地位の拡大、そういうものでも、要するに生産単位として、女が男と同じ技術、地位を有っているということから出発する。
 以前のロシアは御承知の通り結婚する娘達が髪を編みながら悲しみを歌って結婚した状態で、女の文盲率というものも高かった。教会の坊主は亭主に絶対的服従を強いた。それだから、革命後の現在でもそういう歴史的理由によって一般の知識程度が男より低いということは勿論女自身知っている。だからいろいろなクラブの研究会や、文盲撲滅研究会、実際に工場に於ける熟練工に自分をすること、そういうことは非常に熱心にやっている。で第一ソヴェトでは男も女も同じ労働に対して同じ賃銀を払う。同じ賃銀を払うということは同等の技術を要する。だから女の技術が実際男と同じ熟練工でなければ、事実上の賃銀というものは低いわけです。で、女の労働者の中では、熟練工の少いということは、非常に自分達の文化の低いこととして一生懸命その技術向上に努力をしている。
 ソヴェトの生産そのものは中間にはさまって搾取する人間のための生産でない。循環して自分達に来るものを、分割して各自やっているもので、だからソヴェトに於ける社会的生産上のサーヴィスというものは、自分達に対してサーヴィスすることだ。提供すべき生産力と、提供した生産力に対して受けるものの比例は、理想からいえば、出来るだけ均等なものにしようとしている。
 例えば家庭というものは女にどうしても用が多い。洗濯をする、炊事、育児、そういうものをソヴェトでは出来るだけ社会的にしようとしている。炊事でもめいめいが台所で僅の材料を買って、時間を費して、大して美味くもないものを拵えて食べているより、モスクワでは既に出来ているが、大きな厨房工場、台所工場、そこで科学的に原料を調べて、この牛肉は何時に殺した肉だから、何時間後に何分煮て食べたら美味いかということまで調べて、調理し、そういうものを安く食べさせる。そういうことは非常に皆理想としていることだし、また女の非常に望むところで、こうすれば家庭の奥さん方の負担しているところがなくなる。そういうものを全体に社会主義化してやろうということ。これが家庭の日常生活の上で大きな意味をもってる。
 食ったり飲んだりすることは、生活の準備行動で、その準備行動をもって一日過ぎてしまう日本などではこういう準備行動が非常に多過ぎるから、女が割合に進まないのではないか。また男がそういうことに所謂趣味を要求し過ぎると思う。
 今ソヴェトにあっては、洗濯とか食事を共同でやる場所の数が足りないということが欠点で、厨房工場でも、日に何万人というほどの食事を用意する。そういう大仕掛でなかったら意味をなさない。こういうものが若しモスクワならモスクワの一つの区毎に二つも三つもあれば、個人の台所は全然必要はない。ところがまだそこまで行かない。モスクワ市中に五ヵ年計画の終りに五つか六つの大きな厨房工場が出来ることになっていて、それでも結果は大したもので、今でもそういう風な公共の食事場で食事をしている人間の数というものは大変に多い。一九三〇年に一日平均百三十万人の人間が公共的食事をやっている。
 五ヵ年計画の終りには、都会に於ける七十五パーセントの労働者とその家族五十パーセントの料理を公衆食堂でもって賄うことが出来るようにしようという理想でやっており、着々進んでいる。この台所工場はモスクワとイワノボズネセンスク(ここは非常に大きな工場市だ。)それからニジニノヴゴロッド、ドニエプロペトロフスク等にあり、こういうところはソヴェトの新しい文化の中心となっている。
 育児教育の方を見れば、一例としては新しい住宅建築共同組合で建てる建物の中には付属托児所を造るのを理想としてやっている。それでそういうものは最近非常に多くなって、多いところになると区の中にいくつもある。また工場では工場が托児所をもっているから困らない。
 過去ロシアは非常に専制主義だった。それだから中学校に入るのにも、階級の低いものの子は(料理女百姓みたいなものの子)は入れなかった。だから中学へ入るのでも、養子に行って入るとかしなければいけなかった。普通は貴族か地主、軍人、技術家、大きな実業家の息子に限られていたが、今はプロレタリアート、働く者への教育は全部国庫負担にするということを理想でやっている。だから小学校は勿論専門学校も月謝を払わないで、職業組合が補助を与えて勉強させる。だから労働者の子供、農民の子供は第一列に入学させてもらえて、生活費を或る程度まで保証される場合があるから、若い人間は勿論喜ぶ。よくソヴェトの教育方針では個性の発育が阻止されるだろうという人がある。
 勿論教育の基礎的方針は一斉に、学問と生産とを
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