庭を城にして、それで浮世の荒波を防ぐというものではない。社会というものの上にある一つの小規模な連帯責任を有っている団体、そういう家庭で、おやじの身になっても、自分が死んでも社会が子供を保護してくれるという安心のある方が随分安全である。本当に安心して生産に従える。
 また生活の安定ということに対しては、ソヴェトの社会主義を建設してゆこうという方向に自分も賛成で、そして忠実な勤人であり、或は労働者であるならば、日本の何よりも安定である。それは個人関係で保護されているのではなく、職業組合、労働省の法令、いろいろなもので組織されて保護されているから、非常に安全率が高い。第一組合の中で、或る労働者に対して一つの間違った処置があると、他の労働者がこれに対して自分達が有っている権利を適用し、間違った処置をされると自分達の問題だから、周りが黙っていない。いろいろな問題を提議するから、割合にそういう点は安心である。
 例えば労働者を解雇する場合、工場の生産の低減をしなくてはならぬ已を得ない場合、労働者が工場に対して窃盗を働いた場合、それから三ヵ月以上収監された場合、そういうものは無断で解雇してもよい。そうでなければ労働者同意の上、或る場合は次の職業が見付かるまで、猶予してやらなければいけない。
 女は尚更で、例えば、姙娠しているものは五ヵ月以上は解雇してはいかぬ。(工場に働いていることによって、職業組合の方から出産前二ヵ月と、出産後二ヵ月、前後四ヵ月の月給付きの休みを貰う。それから尚出産の仕度金を貰い、また出産後九ヵ月間子供の牛乳代を貰う。)それから乳飲児をもって一年以内のものは最後まで解雇しない。また年寄には養老保険がある。五十五か六十で養老保険を付けて、そして職業を離れてもよいことになっている。特に合理的なのは、除隊兵が若し入営まで労働者だったとすると、除隊後職業を見つけるまで生活保証を受ける。また労働者のためには特に「休息の家」があって、ソヴェトの生産別職業組合は「休息の家」へ二週間から一ヵ月、労働者を送って休養させる。
 それから、ソヴェトでは女が生産単位としては全然男と対等な権利を有って、経済的に独立している。生産単位として女が全く男と同じ地位にいるという点で、その余のいろいろなものが、変って来るのは当然のことで、ただ他の国の婦人参政権、あれとソヴェトの女の獲得している自由
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