その生み育てる本性にしたがって、女性の声はおのずから平和をこわす力に対する心よりの抗議以外にありようはない。ファシズムによって最も悲劇的な被害をこうむったのは婦人と子供である。その損害の一番少なかったアメリカにおいてさえも。
 戦争挑発に反対し、ファシズムに抗議する日本女性のこんなに自然な願いを、わたしたちはなぜいつまでも内証ごとのように扱っているのだろう。ほんとうに不可解なことだと思う。わたしたちの正当な主張にあたって何かおそれなければならないことでもあるというのだろうか。
 わたしたちにとって恐れるべきことがあるとすれば、それはアメリカはじめ世界いたるところにファシズムに反対するおびただしい人々とその集団があり、真心から戦争挑発に対してたたかっているという事実を知らないでいることである。あるいは、現世紀の人類的な正義であるそれらの運動の意味と実力とを過小評価することである。[#地付き]〔一九四八年八月〕



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人民主新聞」
   1948(昭和23)年8月12日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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