ように丸公値上げのことはよけて通ってしまっている。急所はこうしてはずされている。そして、二〇%の改善と推測しているのだが、この推測は推測というものが誤ることのあるとおり誤っている。
「生活が苦しいのは収入が足りないからであるというが」「われわれが苦しいと思うのはほしいものを買えないことである」「国民全体としてみれば、金を出しても物はふえない。物がふえなければ日本銀行券が二倍になっても三倍になっても、余分なものがかえるわけではない」
まず和田長官の「ほしいもの」という目安が知りたい。チリ紙、シャボン、マッチ、脱脂綿、ノート一冊からはじまる学用品のあれこれ、みんななくてはならない「ほしいもの」である。丸公でこれらは買えない。都留副長官が恐縮のいたりとして認めている。わたしたちは、キツネの襟巻がほしいだの、五千円のおもちゃを買いたいなどと思ってもいない。年のくれに新聞は何と報道していただろう。銀座その他には数千円の贅沢品があふれていて、飛ぶように売れているが、生活必需品の購買力はガタ落ちだと、はっきりいっている。新しいナベがいる、ほうきがいる。ほうき一本三百円もする。「ほうきがほしいわねえ
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