ほうき一本
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九四八年一月〕
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 十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだった。わたしは経済について専門の知識はない。だけれども、勤労者のための経済白書ということは奇妙だと思えた。七月に経済白書というものを発表して日本の生産経済の破産状態を告白した政府は、千八百円ベースをきめて、十一月には国民家計が三百円ほど黒字になるといった。ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつたえられた。勤労者のための、経済白書という言葉は、きょうのわたしたち人民の神経へは、つよく響いた。勤労者に白書を出して、青書や黒書はどういうひとたちに向って出しているのか、とききたい気もした。

 二十七日の朝、毎日新聞の記者が来た。そしてタイプで打ったミノ判二枚の「昭和二十三年の勤労者の家計について」
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