く知らせてくれと云ってやった。すぐに返事が来た。病気は何と云っても教えてよこさない、死ぬ時に私のあげたはこせこを抱いて居た事、うわ事にお百合ちゃんお百合ちゃんと云って居た事を書いてあった。そして死ぬその時までにぎって居て死んだらこれをと云って置いた扇は少し口紅がついてますが御送り致しますと書いてあった。青貝の螺鈿の小箱、口紅のかすかにのこる舞扇、紫ふくさ――私は只夢の中の語[#「語」に「ママ」の注記]語りを見てるように――きくように青貝の光りにさそい出される涙、口紅のあとに思い出すあの玉虫色の唇。
お妙ちゃん――雛勇はん――斯のどっちからよんでも何となくしおらしい舞子は私の若いおどるような心の中にあったかい、そして□[#「□」に「(一字不明)」の注記]たない思い出をきざんで呉れたのであった。
底本:「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年11月25日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第6刷発行
※底本では会話文の多くが1字下げで組まれていますが、注記は省略しました。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年10月14日作成
青空文庫
前へ
次へ
全27ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング