たきさげに利用されるブルジョア国の悲しき産業予備軍ではなかったんだ。
 ところで、一九二八年――二九年から、ソヴェト同盟では、えらい勢で生産拡張五ヵ年計画が実施されはじめた。
 都会に工場はドシドシ出来る。
 農村で集団農場がどんなに殖えたかは、去年の穀物総収穫が、一昨年の七千百七十万トンに比べて八千六百六十万トンに増加したことで明らかだ。
 発電所の新設工場は、ドネープル河をはじめ所々方々で行われている。
 鉱山、油田に於ける労働から、犬をつれて羊を追っている牧童の仕事に至るまで、この二年間にひろがった生産の分野は数えつくされぬ。そこへ、ソヴェト国家は、労働者の能率を増し、同時に健康な休養を与えるため、五日週間を採用した。五日週間によって、今までは二交代でやっていた工場も三交代で、運転するようになった。あれやこれやで、一九三〇年、五ヵ年計画がやっと第二年目を終ったばかりだのに、ソヴェト同盟では失業がないどころか、まだ十万近い熟練労働者がいるという有様になったのだ。
 今はそれでいいとし、然し五ヵ年計画が終って、いろんな仕事が一段落ついたら、丁度東京の新興事業が終ったと同時に失業者がましたように、ソヴェト同盟にも亦、うんとあぶれものが出来るんじゃないか?
 その心配は、ソヴェト同盟では不用だ。ソヴェト同盟は、誰のもんでもない。プロレタリアート自身のものだ。五ヵ年計画は、どんな資本家の儲けのためにされてるのでもない。プロレタリア自身の社会生活向上のためにされてる仕事だ。五ヵ年計画が完成して、いい機械と勝れた技術が手に入れば、ソヴェトで労働者は合理化されてしまいはしない。反対だ。彼等は今七時間働いてるところを六時間だけ働くだろう。そして、プロレタリア文化の光を、この世界に明るく輝やかすのだ。
[#地付き]〔一九三一年二月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「戦旗」
   1931(昭和6)年2月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
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