い生活力が有るんですっから」と云ったことの目の前にあらわれて来たと云う事もうれしいと云う事の一部を占めて居た。
「マア一寸、あのあれが出たんですよ、一寸ほんとうに」
統一のつかない言葉をつづけざまに口から吐いた私は又ひっかえして黒土の前にしゃがんだ。
「よくマア、ほんとうによくマア出て御呉れだったネー、まってたんだもの、御前だって分るだろう、さかりの今日になってさえ別のを買わずに御前一人をまってたんだものネー、ほんとうにうれしい心から」
人間の言葉の通じるものに云うように私はこう小さいしおらしげな声で云った。
私はそのやさしい芽生えの返事をききたいといつまでもそこに坐ってたけど何とも云って呉れなかった。ただ、そのしなやかな細かい細胞をながれてうるおして居る色のない血液のそのくっくっと云って居る鼓動と私の赤い、あったかい同じような細胞全体をうるおしてる血液の鼓動とがピッタリと一つもののようにしずかにドキンドキンと波うって居るのを感じた。
初めてもった財布
生れて始めて財布と云うものをあずけられた新吉はやっとかぞえ年で六つになったばかりである。着物の上からも小さくふく
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