ゃああるまいかと思われて人達の目は屏風の中を見つめながらふるえて光って居る。いろんな事は段々はげしくすべり込んで来る。赤黄いローソクの灯の上で白い着物の人間が青いかおを半分だけ赤くして狂って居る様子、白粉をぬった娘や若い男の間を音もなくすりぬけすりぬけ歩いて居る青白く光る霊、いくら目をつぶっても話をしても思い出された。人達は気の狂ったあばれ様をするものを引きとめる様にひやりと引しまったかおをして処女の床のわきにいざりよった。意志[#「志」に「(ママ)」の注記]悪くさわぎはますます沢山すべり込んで来る。処女の体をおさえて居なくっちゃあ安心が出来ないほど不安心になって来た人達はお互に顔を見合わせてはその目の中にうかんで居る何と云っていいか分らないほどの恐ろしそうな苦しそうな色をお互に見あっておどろいて居た。いくつもいくつもの霊はその持主の体からにげ出して動かない処女の頭の上におどって居る。
 赤い灯はまたたき、テカテカの音はひびいて――処女の体はかたく死んで居る。

     私と彼の人

 お互にどんな事があってもまるで知らんぷりをして離れ離れの生活をする事が出来ないと云う事は、私達二人が知って居るばかりでなく囲りの人も知っている。
 一年にたった三度しか会わなかったり、一月中毎日毎日行ききして居たり、気まぐれなはたから見ると、かっちまりのないつきあいをして居ながら一度もいやなかおもした事なく、腹を立てた事なく、おだやかに五年の年月は二人の頭の上を走りすぎて行った。
「そんなに長い間会いもしないで…… 忘れてるんだろう」
 こんな事を私の母はお互に顔も合わせなければ手紙も出さないで居るのを見て云った。
「私は彼の人をよく知ってますもの……一年や二年顔を見ないったって忘れちまう様な――すれちがった気持になる様な人ならもうとっくにさようならをしてます」
 不安心もなく何と云われても斯う云い切る事の出来るほど私は彼の人を信じて居るし又彼の人も私と同じ位――又より以上に信じて居て呉れると云う事を私は知って居た。
 伯父さんは絵書きで――自分でも絵や、本や、文学のすきなあの人は、口ぐせの様に、「私がするんなら、役者か、絵かきか文学者になるんだ」と云って居た。私はどれに御なんなさいとも云わなかったし、又おきめなさいとも云わなかった。
 そして、私の方はいつもの気まぐれで去年の暮ご
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