と民族の自由のためにさまざまの活動をした。戦争の苦しかった日々、わたしたちは日本でこれらのMRA支部員のどんな活動にもふれ合うことが出来なかった。丁度首相になるときから、クリスチャンであることが人民にひろく知らされた片山哲氏について、戦争中人民は彼についてクの字さえ知っていなかったように。今日となればお互にきまりのわるい、このような辱しめの状態があったのも、日本のなかで、わたしたち一人一人の社会的自由と良心の自由とが失われていたからこそである。
世界には日本をこめて約二十三億の人口があり、七千余万の日本の人口の九割五分が勤労に生きる男であり女である。どこの国でも、勤労によって生きる人民の数は、他人の勤労の結果によって生れる利益によって生活する人の数よりも多い。この人民と人民との間の国際的つながりこそ、明日の国際関係の基礎である。一人の天才を期待することで、世界の歴史は好転しないし、人民の苦悩は解決しない。一握りの権力者が自分の利益から選択した外交――国際関係の運びかたで、わたしたちの生活はこんなに傷つけられた。王と王との国際性から、資本家の・軍人の国際性、それが第二次世界大戦でこのように破局を示したあとには、人類社会の根である働く人民と人民との間の幸福への真面目な協力しかあり得ない。民主的な国際性とはきょうのこの歴史の段階をさしている。世界平和と民族の自立と安定のための世界民主婦人連盟を八〇〇一万人の婦人が五十数ヵ国から集って、組織している事実一つをとってみても、世界の正直な人民は、どれほど本気で平和と建設のために国際的協力をしているかがわかる。民主的で平和な世界へすすむために五十六ヵ国約六七〇〇万人の組織労働者が参加して世界労働総連合が組織されている。世界各国に反ファシズムの組織があり、日本では何か特別のもののように考える習慣をつけられている共産党に属する人は世界中で二八〇〇万人を越えている。そのほか東ヨーロッパの民主的な諸国の人民。中国の民主化された約四億の人々、ソヴェト同盟の二億を越す人民。これだけの人民の意志が、永続的な平和と民族の自立・民主生活の安定をもとめているということは、わたしたち日本の婦人にとって何ごとをも意味しない事実だろうか。それほど、わたしたちは、食べ飽き、幸福にみちたり、どんな悲歎からも遠い存在であるだろうか。自分たちの祖国のせまくとも誇りあるべき土の上に、浮浪児や失業者や体を売って生きる女性群を放浪させながら、少数のものが自覚のおそい日本人民の統治しやすさについて談笑しながら彼等の国際的なハイボールを傾ける姿を、わたしたち日本の女は、やはり黙ってほほえんで見てすぎなければならないというのだろうか。[#地付き]〔一九四八年七月〕
底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「女性線」
1948(昭和23)年7月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全5ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング