て疲れた動作で黙りこくって働いていた。ズックの袋に入れて札をつけた白米が店の奥に山とつまれた。馬力で米俵が運ばれて来たりした。東京市内だけでも一日に何軒とかの割合で米屋が倒れて行く。そういう話がある折であったから通りすがりに見るこの米屋の大活況は何となし感じに来るものがあるのであった。そこは朝夕郊外からの勤人が夥しく通る往来でもあったから、そういう男の人たちはどんな感情でこの米屋の店の有様を見て通るのだろうか。そんなことも思った。菊につられて何心なく裏庭まで入ってしまって、目の前に荒っぽいレール敷の米俵の山を見て私たちは、その米屋にかかわりはないのだが興醒めた気分になって出て来た。
豊島日の出と云えば、小学校の子供が厭世自殺をしたことで一時世間の耳目をひいた町である。そこの、米の桶より空俵ばかりが目立つような米屋の店頭に、米の御注文は現金に願います、という大きい刷りものが貼り出された。
それは近日来のことである。
うちでは炭がなくて困っている、石炭屋へハガキを出しても音沙汰なしである。きのうの朝早く外へ出てすこし行ったら炭俵を一俵ずつ両手に下げた厚司前垂の若衆がとある家の勝手口へ
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