度目だけれども、やはりああいう声を聴くと侘しい水を打ったような心持を感じる。――
午後、ひとりぼっちで祭壇の前にいると、手紙が来た。東京のうちから来た。私は嬉しく、裏表をかえして見てから、封を切った。本当に、嬉しい手紙というものは、何ゆえ、ああも心を吸いよせ、永い道中で封筒の四隅が皺になり、けばだったのまでよいものだろう!
手紙は私の留守にフダーヤが伊豆に出かけたこと、あまり愉快でなかったこと、特に宿屋の隣室に変な一組がいて悩殺されたことなどを知らした。彼女は、腕白小僧のような口調でそれ等の苦情をいっている。私は、彼女の顔つきを想像し、声に出ない眼尻の笑いで微笑した。
「癇癪もちさん! まあまあそういきばらずに!」
「帰りに鎌倉へ廻り、家を見て来た。ほら、いつぞや、若竹をたべた日本橋の小料理や、あすこの持家で、気に入るかどうか、屋根は茅です。」そして、その辺の地理の説明がこまかに書かれていた。鎌倉といっても大船駅で降り、二十何町か入った山よりのところ、柳やという旅籠屋があって風呂と食事はそこで出来ることなど。「思いがけないことには、テニス・コートと小さい釣堀がある、コートはいいでし
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