同盟兵が人形の体に鉛筆でいたずらがきしたようなことを「けがされた人形」とある種の連想をともなう誇張した題でかいているのはどうしてだろう。その人形は宜川のソ同盟の屯所へ行って、にこにこ笑う兵士に地下室へ案内されて、そこからもらってきた布地でつくられた。その布を見た同室の人が、あら、いいわねえ、みんなで早速人形つくりをはじめましょう、といったとき、「みんなですって、この布は私達のものよ。皆で作りたかったら、自分で行って布を貰ってくればいいでしょう。この布はあげられませんよ」女主人公はそういった。その婦人は、いかにも口惜しいという顔をして、「利己主義ね!」という。「なんですって、利己主義はお互さまでしょう」その人は、冬、オンドルのある特別室にがんばって動かなかった人である。
「流れる星は生きている」は、一人の女性の生存力が、小さい子供の生きぬく力とともにこのように発揮され、このような方向に煉磨されなければならなかったことは、まったく軍国主義の犯した一つの犯罪であるという歴史の事実をわたしたちに告げる一つの物語である。著者にそれを自省する力がないならば、せめて読むものとしてわたしたちは、このよ
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