。合唱が絶えると一きわ手風琴の音が冴えわたって、あちらこちらから人の心を誘うような旋律と声とで独唱が流れて来る。朝子は暗い目で頭をかしげるようにして、色とりどりな休日の終りに響いているその音楽をきいた。涙ではとかされないものとなって迫って来ている様々の苦しい感情のうちには、保の目で見送られた自分の生きてゆく後姿もあるのであった。堪え難いという顔色で、朝子は椅子をずらし、
「外へ行きましょう」
素子の手をつかんで、ひっぱるようにその青っぽい窓べりをはなれた。朝子が歩いて行く廊下は四週間前の宵に、彼女がその上へ倒れた白と黒の市松模様の石の床であった。
底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
1979(昭和54)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第五巻」河出書房
1951(昭和26)年5月発行
初出:「新潮」
1940(昭和15)年1月号
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年4月22日作成
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