だちっとも使い古されていない珍らしさ、瑞々しさで活きている。
大変親愛なのは、宗達がそのように背景をなす自然を様式化して扱いながら、その前に集散し行動している人々の群や牛などを、いかにも生気にみちた写生をもとにしているところである。
眺めていると、きよらかな海際の社頭の松風のあいだに、どこやら微かに人声も聴えて来るという思いがする。物蔭の小高いところから、そちらを見下すと、そこには隈なく陽が照るなかに、優美な装束の人たちが、恭々しいうちにも賑やかでうちとけた供まわりを随《したが》えて、静かにざわめいている。
黒い装束の主人たる人物は、おもむろに車の方へ進んでいる。が、まだ牛は轅《ながえ》につけられていない。華やかな人間の行事にも無関心な動物の自然さで、白と黒との立派な斑牛はのんびり鼻面をもたげ主人にそびらを向け、生きていることが気持よいという風に汀に向って水を飲んでいる。
視角の高い画面の構成は、全体が闊達で、自在なこころの動きがただよっている。自然の様式化と、人物の、言葉すくない、然し実に躍動している配置とは旋律的な調和を保っている。ここには、自然の好きな人間の感覚それにもま
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