青い着物を着たときの事情が、わかりにくくかかれている。同じこの理由から、前巻に収められている「突堤」のはじまりの文章も分りにくい。当時は、そういうことをあからさまに書くという心持そのものが抗議をあらわすものとされていて、治安維持法の対象とされたのだった。あの頃の作者と読者とはほんとに敏感で、おたがいに片言でものを云って、それでやっと心を通わせ合って暮した。そんなに日本中が牢獄的であった。
わたしはその頃の日本のすべての人民の苦痛と精神も肉体も不具にされていた日の記念として、きょうではおかしく意味の不明瞭に書かれている文章のまま、傷ついている姿のまま、作品をのこしておく。愛する日本が、また再び作家にかたことを云わせるような非条理な強権に決して屈することのないように。言論の自由ということは、どんなに人間の社会生活にとって基本的に主張されなければならない重大な権利であるかということについて忘れないために。
一九四八年二月十四日[#地から1字上げ]〔一九四八年二月〕
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭
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