、達者にならないように心がけていいと思う。
 作品のほとんどすべてが、文学として非常に素朴であった。作品にとりあげられている現実においてどの作品にもうそがなく、その範囲でテーマは正しく題材の中につかまれている。けれども、文学の作品という点からいえばどれもほとんど小説の骨子を物語っているにすぎない。
 古い文学のポーズをまねたり作者の真実でない感情や心理をかりて来たりしていないところがこれらの作品の新しい力である。作者たちは、これらの作品の土台にある態度をくずさないで段々もっとこまかに現実を観察することを学んで行ったらたのしみである。語りたいテーマが、職場や人生そのものがそうであるようにそれぞれの人物の特徴のある動き、ふん囲気をとおし、かたまったり散ったり、考えたり行動したりする人間と歴史のからみ合いの中に盛り上げられてゆく面白さこそ、リアルであって、しかも平板な現実の一片ではない文学の味である。小説は現実を追っかけるものではない。現実を整理して人生を改めてその人にしらしてゆくところにつきない興味がある。
 働く人には時間が足りない。三日のところを五日かけて成長してゆく根気が新しい文学を
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