キ哉時キタレバ
忽チニ再ビ瘡痍ヨリ芽フキテ
ソノ傾ケル紅ハ茎ナガク
イトハルカナル方ニムカフ(白昼)
くさんちっぺもかわいそう
にんじんの母親もかわいそう
トルストイ夫人も自分のよう
まして私はかわいそう
これでは気のきいた批評などはかけず
たゞどもるばかり(冬)
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けれども、「草に寄す」「夏」「落差に就いて」「わが肉は新陳代謝はげしく」などにもり上りほとばしる感情の勁靭さ、豊富さと清潔さとには、気持よい水しぶきで顔をうたれるような悦びがある。
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私は凍らず天をみない
落差ます/\はげしく一樹なく
人工の浪漫なくおもむきなく
世の規定を知らずとび落ちよう
おのが飛沫の中にかゞやき落ちよう(中略)
おゝ詩はやわらかい言葉のためにあるのではない
わがうたは社交と虚礼のために奏でざれ
あかつきの大気をくぐりぬけ
美しい霜のおくように
そんなに私はわが詩を貴方の胸におくりたい
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面白いことだと思う。むかし話に漁師伯龍とその妻となった三保の松原の天女の物語があって、それを大正の時代に菊池寛が「羽衣」という短篇に書いた。天女を妻とした漁師伯龍は元来女たらしであったのだが、天女を妻として十日ほどは彼も大満悦であった。天女は美しくて、彼の肉情も十分に満足させた。けれども、天女だから何にもしない。夕方になって伯龍が腹をぺこぺこにして戻って来て見ると、自分が食べない御飯はたくことも知らない天女の妻が退屈もせず縁側などにぼんやり腰かけている。伯龍がこらえかねて或るとき「このたわけ者め!」と足をあげて蹴ったらば、天女の妻は体が軽いので一二間はねとばされたが声も立てず闇の中でにこにこ笑っている。何より不満なのは天女に少しも話のないことだった。やきもちさえもおこさない。だが天女の妻は美しくて彼の肉情を満足させた。一ヵ月もたつとさすがの伯龍が降参して、もう天へかえって呉れとたのんだが、天女の妻は「天に偽りなきものを」と約束の三ヵ月だけ伯龍のもとにとどまった。伯龍はひどい神経衰弱になった。そして天女がかえってから、伯龍は暫く女房をめとろうとしなかった、と昔の菊池寛らしく、天上的なものへの諷刺を語っているのである。
菊池寛によってかかれた天女が、男の肉情をみたすことだけは知っていたというのは、何と皮肉なようなことだろう。菊池寛にそのようなものとして描き出された天女が、諸国にすまって
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きずなは地にあこがれは空に
冬すぎ春来て暮すうち、いつしか
おゝ詩はやわらかい言葉のためにあるのではない
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とうたい出すようにもなって来たということは、ほんとに面白いことだと思う。現代の天女は話しがないどころか、自身が女の習俗で習慣づけられて来た「論理のどもり」を自ら知り、「素描」の新鮮な感性の価値を影響に研こうと欲し「女性は文学に死せず」や「皮膚をきたえん」には女性と芸術との厳しく隠微な関係さえとらえられ考えられうたわれている。
永瀬さんが今日の日本の女性の詩人として示している独特な美と力とは、女心が縷々《るる》として感じてうたう自然発生の魅力ばかりを鑑賞されることにたよっていないで、女が考える、という合理的な事実を承認して、それをまざまざとした感性で表現してゆく天稟をもっているところに在ると思う。「ギリシャの海では」「デカダンスは」「約束せぬ恋」「女性の価値標準」などは、そういう意味で女の成長のためのたたかいをうたってもいる。
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女性としてかなしいくらいふしぎな責任。
それは絶望してはならないことだ。
それは天地の底からの母親ごころがゆるさないのだ。
古今のすぐれた女性は皆この人生へのいたわりを持っている。
デカダンスは男のものである。
特に現代に於いては。(デカダンスは)
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竹内てるよさんの「静かなる愛」の表現とこの永瀬さんのこの詩の言葉とは何と相異しながら、女性としての感覚においては同じ本質をもっていることだろう。
永瀬さんは、女の歴史、日本の女の成長の酸苦を「麦死なず」のなかにうたっている。
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私らにとっては樹木が自然の季節を知るように自明であることはなんにもない。
どんなことでも私らは迷って見なければならないのだ。
彷徨しないために一生さえ彷徨しなければならないのだ。
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その女の歴史の切ない必然を見ることをしない男たちは
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自分らの不明を反省するより
浅はかな理想の幻影に
エキセントリックなまでに殉じようとした彼女らをあざける。
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と、正当な怒りが向けられている。「麦死なず」とい
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