「圧しつけ[#「圧しつけ」に傍点]られてこそ味の出る沢庵」と、搾取と闘おうとするわれわれの当然の意気組みをそらすような一番始末にいけない「諦め」でフぬけとなるよう、塩梅しているところは巧なものである。
男や軍人が書いたのでは陳腐だというので、警察官の女房などにわざわざ「満州里遭難血涙記」を書かせ、公爵近衛文麿の戦争をけしかける論文。今ジェネヴで「泥棒にも三分の理」にさえならぬ図々しい屁理屈をこねている日本帝国主義の三百代言松岡洋右の提灯もちなどとともに、大衆を犠牲として恐慌を切りぬけようとする支配階級帝国主義戦争強行のチンドン屋の役を相つとめている。
「物価暴騰時代。損をしない心得」この記事をよんで、『キング』が大衆の支持を失う日はもう見えていると強く感じた。
軍事経済政策で日用品の物価はこの五ヵ月間に三割近くあがったが、損をしないためには、「干饂飩なんかは一年分位買いため[#「干饂飩なんかは一年分位買いため」に傍点]」「米の如きも少しは買いためておけば[#「米の如きも少しは買いためておけば」に傍点]」いい。そういうことが書いてある。
これを読んで「ふん」と思わないものがあるだろうか!「米よこせ会」は何のためにあるのか。大衆は先ず食えないのだ。買いためなどの出来るのは資本家地主であり、戦争とそのために起った物価騰貴で儲けるのは即ち彼等であることを『キング』の記事は露骨に告げているのである。建国祭が近づくが、日本の専制的な支配権力が大衆を無知と無気力におくためにはどういうものを読ませようとしているか。それは『キング』一冊とって見て明かである。われわれは根気よく至るところでそれと闘い、プロレタリアの文化を建設して行かねばならぬ。
[#地付き]〔一九三三年二月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「文学新聞」日本プロレタリア作家同盟機関紙
1933(昭和8)年2月1日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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