あゆみ』は、その点に特別の配慮がされていて、物語る口調そのものの平らかさにまで随分気がくばられている。
 抗争摩擦の面をさけてなるべく平和にと心がけられた結果、その努力は一面の成功と同時に、あんまり歴史がすべすべで民族自体の気力を感じさせる溌剌さを欠いている。それは、これまでの調子から離れようとしているときのさけがたいあらわれかもしれない。何年かさきに、必ずもう一度日本の歴史教科書は書き直されるべき見とおしに立っている。
 もう一遍かき直されたとき、はじめて日本民族は、自分たちの祖先が、世界進歩の波瀾の間にどんな失敗をし、どんな功献、建設をしたかということを率直具体的に知ることが出来るだろう。真に自主日本の物語をもつに到るであろう。『くにのあゆみ』が日本の歴史学的な根拠もとぼしい皇紀をやめて、西暦に統一して書かれたことは、この将来の展望の上からも妥当である。[#地付き]〔一九四六年十月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「婦人民主新聞」
   1946(昭和21)年10月31日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
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