「未亡人の手記」選後評
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き]〔一九五〇年一―四月〕
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一
わたしのところに十三篇の原稿がまわされてきた。一つ一つと読んでゆくうちに、ぼんやり一つの疑問がおこった。こういうものについて「選をする」というのは、どういう意味をもつのだろうかと。どの一つをとっても書いたひとの現実とそれに闘っている心がそこにむき出されている。戦争の底の知れないようなむごさと、それによって破壊された生活をなんとか生きてゆけるものにしようとしているひたむきな姿がある。たとえその文章が、われわれ人民を戦争にうちこんでめちゃめちゃにした資本主義、軍国主義の権力と、人民の立場で考えられる「社会」というものを混同していて、軍国主義権力の欺瞞と破壊への憤りが「社会」一般にむけられていようとも。あるいは生活の幸福というものを、動かない形にはめて考えてきた老年の女性が、こわされながらもまだ生活の現実にのこっている積極な可能性をつかめないで、その一つの文章が嘆きと愚痴に終ってし
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