の崖、熊ささ、しぶき、かけひの湯の音
七日目、Aかえる、自分もう少しなおしたい、そこへ部屋があいたと番頭来る。「ここだけの金を払ってるんだから動く必要はない、どうせあとに人が入るのだろう」
    見晴し台での話、
    「夏じゅう、すっかり、旅行で費してしまう。――自分のために来たのでもないのに」
    「自分のためでなくていやならすぐ、かえって頂戴!」
二十八日 黒磯でわかれ安積へ来る。
    のびやかな雰囲気へのあこがれ。四人 ヒデ男、スエ子などと大さわぎ。
    母、関の「呑気でいいことね」
    「本当に其那ことをする人なら見上げるよ。私の不明もわびよう」それではおそいという心持。
[#ここで字下げ終わり]

○七日 一つ夢を見る。Aが血が出るからと云って医者を呼び、傍に居る女中に気がねして少し blood が出ると云ったのまではっきりして居る。朝医師を迎えの手紙を書きつつ、それが事実に合う悲しさを感ず
 十二月喀血(六日[#「六日」に「五日」の注記])の夜そのことを話す。風呂場で、妙なセキが出るのね、と云ったとき、
 菌のこと、自分にうつって居るかもしれぬ事
 十八九日 朝零下のこと多し

○七日 寺沢一時半に来る由、
 冷静になろうとし、自分、机の前に来る。アディソンとスティールの wit よめず。我慢して十二時まで机の前に居る。左の肺尖の音が少し悪いから、鎌倉の養生院に居る知人に話し、見させようという。
 自分も見て貰う。異常なし。
 夜床につこうとして体を動し、その拍子に又出す。精神感動で手足ひやひや体をふるわす。湯たんぽ

 八日 零下。
 生活についての不安。

 九日 ケイオーの奥田喜久三来、上半身むき出しになり、従順に深呼吸したり何かするAを見る哀れさ。矢張り異常なし。

 十、十一、十二、平穏。
 十三日 少しよくなってA、学校学校とさわぐ。
 よくなって自分の仕事をして居られるのに行かないのはどうもと、義務を云々する。自分は其を姑息に感ず。

 十四日 岸博士来、左胸部浸潤
 来年二月頃まで休養
 〔欄外に〕(七)[#(七)は縦中横]○病気にかまけて居るAを見る歯がゆさ。
  聖書 マンネリズム
 ○上役に対して。
 ○パーマのこと。

 二月頃
 ○西村のこと。
  マリモ
  本屋、

 六月
 ミスタ、ミセス ピアス
 
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