相談にのってくれる人はある。家庭のプロレタリア婦人は誰にその相談をもって行っていいかわからない。そこで、御承知のブルジョア婦人雑誌や新聞の「身の上相談」「女性相談」というようなものが現れたわけです。
 やっぱり同じ朝日新聞にこの頃「女性相談」というのがあります。
 解答者は三宅やす子、山田わか子というような人です。そこにこの間、次のような相談が出された。
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   酌婦生活をやめたい[#「酌婦生活をやめたい」はゴシック体]
 問[#「問」はゴシック体] ふとした事情で私はまとまった金が入用になりましたため一時の生活と思って前借して現在田舎の料理屋に女中として住み込みましたが、毎月の給料が四円ですから、どんなに倹約しても毎月四円ずつしかたまって行きません。ここへ入ってもう半年になりますがその間にはお客に接して随分厭な思いをさせられる日もありました。なんとかして早く現在の生活からぬけ出してまじめな職に帰りたいと存じますけれど、前借を支払う道がありません。看護婦の資格がありますので現在の生活を脱出して病院か会社などにつとめたいと存じます。何かよい工夫はありませんでしょうか?
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 この答は、どうされたか?
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   「主人に決心を打明けて[#「主人に決心を打明けて」はゴシック体]」
 答[#「答」はゴシック体] あなたの決心さえ堅ければ、つまりそういう生活を断然やめたいという決心がつくならば、今の主人によく気持ちを打ち明け返金を延ばしてもらうことができると思います。
 そして、看護婦となってまじめに働いて借金をお返しなさい。今は不況時代で就職は難しいと一般に考えられていますが、しかし、誠意をもって、たましいを打ちこんで自分の職務に尽そうとしている人は少ない。
 ですから、職を求める人がそこらにほうきではきよせる程あっても、要するに、誠意を認められている人はやっぱりあちこちから引ぱりだこです[#「誠意を認められている人はやっぱりあちこちから引ぱりだこです」に傍点]。人はあまっているといっても、誠意をもった人ならばどんなに多くても少しも多過ぎません。あなたもそういう少数のうちの一人となって世の中のためになる仕事をするようにおなりなさいませ。(山田わか)
[#ここで字下げ終わり]

 こんなことが強慾な資本主義の世の中にあるだろうか?
 ここにいわれている誠意[#「誠意」に傍点]とは一体どういうものだろうか? こういう誠意が結局ブルジョアにとって都合のいいものであることは知れている。
 この例でわかるように、ブルジョア新聞や雑誌の身の上相談は、プロレタリアの婦人の真の苦痛を解決する役に立たないのは明らかです。
 困ったことがあったら、われわれの雑誌『婦人戦旗』に相談をもちこめ。『婦人戦旗』は、われわれにホントにプロレタリアの女として、世の中をどう見て、どう暮してゆくかを教える、たった一つのホンモノの雑誌です。[#地付き]〔一九三一年八月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「婦人戦旗」
   1931(昭和6)年8月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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