日本をこめて世界の工場や農村で、働く婦人は勇ましく解放の日のために闘っている。あなたの現在と同じような境遇と苦悶をもっている沢山の工場外の婦人も、自分が職場にいないからと云って引込むべきではないと思います。しっかりやりましょう。だが、工場の中で大勢して働き、どんなときも団結して闘う練習のつまれている労働婦人とちがって、一人一人きりはなされて暮らしている家庭の婦人は、どうしても互にガッチリかたまる[#「かたまる」に傍点]熱がよわいものです。また、女学校などに入って、ブルジョアの教育をどっさりうけている女ほど、頭の中や言葉の上でだけは一応道理がわかってプロレタリア、農民の味方となろうとするが、そしてその勉強もするが、とかく勉強だけに終って、行動にまで出ない弱点があります。
あなたが、自分の進んで行くハッキリした道を決めるためには先ず工場、農村でどんなに忍耐づよく毎日毎日を解放に向って働く大衆が闘っているか、その実際を目と耳とで身にしみて知り、それに対して自分はどんな手伝いが出来るか真面目に研究し同時に良人に向ってもきりっ[#「きりっ」に傍点]として親切なプロレタリアの女らしい動かない態度で、さっき云ったような工合に分らせようとやって見ることです。
大騒ぎだけして一時ケリがつくと、あなた自身上べだけゴマ化し様子を見ていると対手もその間は知らん顔をしているなどというのは、正直に云えば双方で鼻息をうかがう卑屈な態度だと思います。
『働く婦人』を手伝いたい
『働く婦人』がほんとにわれわれ働く婦人の雑誌だからこそ、こうして支持し、そこに働きたいと思われるのだと信じます。全く『処女』『白百合』『希望』などという雑誌は、われわれの毎日を幸福にするために知らなければならないことを何一つ教えぬ。
やすいやすい賃金でも働く婦人が黙っておとなしく搾られているよう、若い働く婦人の物の考えようをブルジョア、地主の都合よいものにするよう、隅から隅まで考えてつくられているのです。
『働く婦人』と正反対です。『働く婦人』は隅から隅までわれわれ働く婦人が自分たちの生活を少しでもよくして行くためには知らねばならぬことを、正しいプロレタリア、農民の立場から、話し、示し、盛りこんでいる。
さて封筒書のことですが『働く婦人』は日本プロレタリア文化連盟の出版所から出されているものです。編輯は日本プロレタリア文化連盟に加盟しているいろいろの文化団体からの代表があつまってされているのです。『働く婦人』だけの事務所というものは、ですからありません。出版所の中でひっくるめて、いろいろの仕事がされているのでして、今さし当り、人手は不要な有様です。
すぐ『働く婦人』の事務のために働いていただくことはこういう次第で出来ませんが、お話の様子ではあなたは『働く婦人』を毎号お読みのようですから、先ず、直接購読者となり、追々『働く婦人』を中心としたサークルをこしらえて行ったら実にいいと思います。(サークルについては三月号附録をよんで下さい)また、あなたが働いていられるところで見聞きするいろいろの出来事とか、友達に『働く婦人』を見せたら何と云ったとかいう一寸見ると小さいようなことでも、どんどん『働く婦人』に投書するようにして下さい。そして、段々長い通信も送れるようになり、『働く婦人』の通信員となれれば、お互にどんなに助け合えるでしょう!
『働く婦人』を支持するのは、決して、そこの事務所で働くということだけに限られていません。
それどころか、一人でも多く直接購読者をつくり、通信を送り、サークルをこしらえて行くことこそ、実にわれわれの大切な雑誌『働く婦人』を守り、育て、強固な皆の役に立つものにしてゆく方法なのです。
どうぞこのことを理解し、猶一層『働く婦人』を支持して下さい。われわれの婦人雑誌はただ一つ『働く婦人』があるぎりです。
就職のことその他
今月号『働く婦人』の巻頭の檄にあるとおり、つい先頃、日本プロレタリア文化連盟に加えられた理由のない弾圧のため『働く婦人』直接購読者の一部に被害があるらしいことを非常に心配しているところなので、あなたのお手紙は特別注意をひきました。全くあなたの手紙の通りです。どんな場合にでも私たちはただ一人では弱い。しかし同じ目的に向って進む階級としてかたまれば実につよい。団結の力はどんなに強いものかということをブルジョア・地主は知っているからこそ、たとえば文化サークルのように何でもないものまで当局は、ただそれを中心に大衆が集るというだけで、もうとやかく干渉するのです。過去の経験を、現在あなたが『働く婦人』の直接購読者としてどんなに活かしていられるでしょうか。そのことを、私たちは知りたいと思います。先の経験で一人ぽっちでは弱いということをつくづく知られたらしいが、『働く婦人』を中心として現在ではサークルでも組織していられますか? 何人かがかたまって集団的に取次者をきめて直接購読をしていられますか? 若しまだでしたら、価値ある経験をすぐ今日の実際の中に生かしてゆかれることを希望します。ブルジョア・地主の政府が資本主義経済の行きづまりから死物狂いにファッショ化して来ている現在の日本で、プロレタリアの唯一の文化的武器である、プロレタリア出版物を支持し、その配布組織を敵から守って拡大強化してゆくことはわれわれに課せられて決してなおざりに出来ない階級的任務なのです。
文化連盟及『働く婦人』の基金募集応募のことは異議あろう筈はありません。例えば、『働く婦人』にしろ、実に困難な経済の中から苦心して発行しているのです。あなたがまとまって寄附なさることが出来れば幸いです。その他あなたのお友達の中で、よしんば纏《まとま》った額を一時に応募することは出来ないにしろ、毎月一円ずつぐらいなら出せるという方でもあれば、すすんで『働く婦人』の維持員になるよう勧誘して下さい。維持員にはなれないが半年分誌代前納で直接購読ならしようという方があれば、これも大切な支持者です。いつも、われわれはその額の多少によらず心からわれわれの出版物を守ろうとしてされる経済的援助を歓迎します。
さて、就職の件ですが、お手紙に書かれていただけでは、あなたの親が就職そのものについてどんな意見をもっていられるのかはっきりしません。然し、自身技術をもっていて就職を望んでいるとしたら、適当な就職口を見つけて働き、集団の生活を知り、働く婦人としてどう搾取者と闘って行くべきかという訓練を受けるのはいいでしょう。われわれはブルジョア社会で搾られる働く婦人として官僚主義、差別待遇等に対しどこまでも闘って行くべきです。あなたはそれらに対し「随分反抗しつづけて来ましたがこの位のことが何でしょう」と云っていられるが、それはその時代の反抗が個人的に一人対一人として、組織の力によってではなくされたので、そういう心持を今あなたに起させているのだと信じます。あなたが団結の必要を知ったということは、即ちプロレタリアートを解放し、真に婦人の生活を幸福にするための闘争には強いプロレタリアートの組織がいるということを意味しているのです。今度就職したら、職場のみんなの不平不満をまとめ、個人の問題を働く婦人として全体の問題と連関させて闘う努力をされなければならないと思います。
就職をどこでするかという問題に答えるのは困難です。若し両親がどうあってもあなたの進もうとする道を妨げるのなら、顔を合わせぬ遠いところで勤めるのもいいでしょう。納得ずくでゆくときと行かぬ時とがある。いつでも納得ずくでなければことが決定されないとなると、ダラ幹式で或場合永久にわれらの主張の通りっこないこともある。その点を考えて行動されたらよいだろうと思います。
[#地付き]〔一九三二年一月―四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房(「病母と弟を抱えて」)
1953(昭和28)年1月発行
「宮本百合子全集 第九巻」河出書房(「病母と弟を抱えて」以外)
1952(昭和27)年8月発行
初出:「働く婦人」
1932(昭和7)年1〜4月号
※『働く婦人』読者からの、身の上相談に対する回答。
※「病母と弟を抱えて」将来、結婚した際、病んだ実母をどうみていけばよいかに悩む女性からの相談。
※「良人と私の思想について」会社員の妻(結婚後四年、二十五歳、子二人)。進歩的な芝居や本にふれると、夫から虐待される。経済的な独立も許されない。大本教信者の夫の兄からは、勧誘される。
※「『働く婦人』を手伝いたいが」雑誌編集手伝いの女性。携わっている『健康』は、反動的。『働く婦人』を手伝いたいのだが。
※「就職のことその他」郵便局在籍時、進歩的な雑誌を購読していたことから、警察の取り調べを受けた。病気で退職した際の退職金から、四十円を文化連盟に寄付したい。電信の技術を生かして、再就職したい。反対する両親と、縁を切ってでも希望を貫くべきか。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月26日作成
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