の普及率は凡そ世界の十四位にあるらしい様子である。ラジオ年鑑によると、ソヴェト連邦は約六十五局、聴取者約一千万、中華民国は全国百二十局内外。施設者はアメリカと同様に千差万別であり自由経営になっている。普及率の面から見て最低中華民国、スペイン、イタリー、ポーランド、日本という順である。このことと、これらの国々における民衆経済力の低度とを思い合わせる時、ラジオも亦複雑な社会相を語るのである。
 又、放送協会は、日本の聴取者が、協会に向って資料として役立つ真面目な投書を少ししかよこさないことを訴えている。イギリスでは一年に約七百八十万通という投書が、英国放送協会に集って来る。アメリカの一放送会社へは五百万通、ドイツでさえ八十万通ある。イギリス放送協会の専務理事サー・ジョンリースは議会で「放送番組の編成並に改善は聴取者からの投書を基礎にして行っている」と明言し、ドイツで昨年音楽放送を増大したが、これは聴取者よりの希望を反映したものであると発表している。日本では僅に一年七・八千通の投書が協会へ送られるにすぎない。「一体に日本人は投書する事を余り好まぬ風習があって」投書がかくの如く尠いことを当局は遺憾としているのである。
 民衆が過去の歴史において日常の社会生活における自主性を確保して来たイギリスが、ラジオ協会に対する投書に於ても最高を示しているということは意味あることであろうと思う。日本のラジオの組織やプログラムの内容が、今日の民衆に対して、益々自発的見解を社会事象に対して忌憚なく表明させるような方向へ作用しているか、否かを公平に省察すると共に、聴取者は素直に、積極的に、中央放送協会によって公言されている次の態度を身につけるべきであろうと思う。協会は当事者として聴取者に求めている。「何事に対しても多数の人が銘々の意見や希望を投書によって率直に述べるということは其事業を大衆的に効果あらしめる最もよい手段であって、ラジオに対する欧米人の態度が丁度このよい例である。」と。更に「ラジオは百万聴取者のもの、否国民全体のものである。」「ラジオは又『自分らのラジオ』であるという認識をもってよりよき[#「よりよき」に傍点]ラジオの為に常に協力」すべきであると。この数言に何と含味すべき豊富な歴史性が包含されていることであろう。[#地付き]〔一九三七年八月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「唯物論研究」
   1937(昭和12)年8月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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