とが支那ソヴェト地方、ソヴェト同盟〔四字伏字〕の件になると、みんなは仲よく結合する。力を互にかし合う。それは何故か?
 世界のブルジョア・地主にとって、働く者が自分たちで生産を統制し、政治をやって行く社会主義の国ほど憎い恐しいものはない。
 ソヴェト同盟があるばかりに世界の勤労大衆が第一ハッキリ知ってしまった。搾られずに生きる世の中には、自分等の力で建て直せるものだと。
 しかも、あらゆる生産はソヴェト同盟で計画的に、大衆の共力によって社会主義的にグングン作られて行くから、ブルジョア生産のように下らない資本家同士の競争やぶつかりが無く、どこもかしこも不景気の中に、ソヴェト同盟だけはどうでしょう!
 五ヵ年計画が着々進んで失業がない。
 労働時間は八時間から七時間になる。
 賃銀はアガる。
 農民の生活は集団農場化で、目ざましく楽になって来ている。
 どこの国の勤労大衆だって、働くものの身になって見ろ。自分のところもそうしたい。大衆のその望みは、深刻な恐慌につれダンダン形をとって来るから、各国のブルジョアは、大衆のその的を自分等の罪からハグらかすため、敵らしいもの[#「敵らしいもの」に傍点]を外に求め、それを押しつける。
 今われわれは尤[#「尤」に×傍点]らしいものとして満蒙の利権擁護というものを押しつけられているわけです。
 一昨年からの不況は何しろ、一般の生活にこたえて来ている。まして、暮れに迫って、誰しも「何とかならなければ……」という気分が世間にみなぎっておった。
 そこへ、さもこの世界的(ソヴェト同盟をのぞいて)不況がそれで救われでもするように、われわれ搾られているものの利権、生命線がそこにありでもするようにジャンジャン満蒙事件をアジリまわす。
 何とかならなければという行きづまった世間の気分はうまくブルジョア・地主に向きを換えられソラされてしまったのです。
 そればかりか、この満蒙事件をキッカケにブルジョア・地主の政府は愛国主義、ファシズムをふりかざし一切の大衆的な働く者の闘争的な力を、根こそぎ押し潰そうとしているのです。
 満蒙問題を、さも挙国一致で、プロレタリアート・農民・小市民まで〔二字伏字〕しなければならない問題のように扱っているところに〔二字伏字〕があらわれている。
 この一大事の時にストライキなんぞをする奴があるか、国賊奴!
 小作ソーギなんぞやってるときか、頓痴気奴! トテトテトウ! テテトテトウ!
 こんな胡魔化し騒ぎで命をとられるのはバカらしい。御免[#「御免」に×傍点]蒙りたいなどとは云わさない。この際戦争反対[#「反対」に×傍点]をとなえるような者は獅子身中の虫だと、やっつける。
 みなさん。ブルジョア・地主は遠い満蒙へ兵士をくり出したのではありません。実はここで、われわれ勤労大衆の盛りあがる力に向って、それをとっぷせるためにくり出しているのです。
 だから、いつもストライキを売ったり、賃銀値下げの片棒をかついだりしている社民、労農大衆党などというブルジョア・地主の手代無産政党は今度のことについて何と云っているか。主人に「ワン」と云えと云いつけられるとおり「ワン、ワン」とやっている。――搾られているわれわれ大衆の立場からでも、満蒙の権益擁護は認めることが出来るなどと嘘をついている。ブルジョア・地主につらまって、自分らを放っぽり出す正しいプロレタリアート・農民の力を、ついでに〔一字伏字〕そうとかかっているのです。
 われわれ働く者はみんな、婦人は云わずもがな、ハッキリ、事の真相を知っていなければなりません。
 満蒙を殖民地としたって、この世にブルジョア・地主がある間、われわれの解放は決してない。搾取者がある間、搾取される者の苦しみは消えない。不景気の根が絶えるとでも思ったら大間違いです。世界の不景気は、世界のブルジョア・地主自身がこしらえているものなのです。支那のわれわれと同じに搾られている大衆の知ったことか!
 機械は働くもののためにまわり、田畑は耕すものの幸福のために実る社会、ソヴェト同盟のようになってこそ、初めて首キリもなく失業もない世の中になるのです。
 働く者は、働く者の国ソヴェト同盟と支那ソヴェト地方の味方[#「味方」に×傍点]なのは当然です。ブルジョア地主がソヴェト同盟をつぶし、支那のソヴェト地方をやっつけ、つまりわれわれが当然の権利として解放されようとするのをやっつけようとする時、われわれは勇ましく〔十字伏字〕。
 まして、働く婦人はそうです。
 さて、満蒙事件についてはこの話のとおりですが、白木屋を出て、何とも云えない心持になった。
 僅か十一二歳のお下髪《さげ》に洋装の小学生が二人店の外に立っていて通る女をよびとめ、白木綿に赤い糸で一針ずつ縫って貰っている。俗に云う千人縫いです。
「それは何ですか?」
ときいたら、自分の云うことをあやしみもしないで、
「弾丸よけになるんです、満州へ送るんですから、どうぞ」
と、その理科を学校で習っている生徒が答えた。
 みなさん、この進歩した武器で、飛行機の上から毒ガスを撒き、バク弾を下す戦いで、チョビ、チョビ赤糸でとめた白木綿が何の役に立ちましょう。刀をふりあった昔、刺子は幾分役に立ったろうが、今では全く役に立たない迷信です。
 そんなことをやる間に、小学生たちは、兄貴を殺す[#「殺す」に×傍点]な! 父ちゃんを殺す[#「殺す」に×傍点]な! と、ブルジョア侵略戦争反対[#「反対」に×傍点]の叫びをあげるべきではありませんか。
 これは物心の少ない少女だけではない。立派な大学生が、往来で、われわれのブルジョアの尻馬にのり、いい気になって寄附募集のメガホンをふいている。
 ブルジョアが経営している劇場東京劇場は早速御用劇「満蒙事件」を上演する。ブルジョア新聞で一つとしてことの真実にふれた報道をしているのがあるでしょうか。
 ラジオは一日に何度となく満蒙ニュースを放送する。
 これを見て、ブルジョア文化というものが、どんなに臆面なくブルジョア自身の利益を守るためには形を変えられるものであるか、まざまざと理解される。
 ブルジョア自身の利益である間ラジオも新聞も劇場も世界平和主義、協調主義を放送する。それがブルジョアに不便となれば、忽ち理屈のあるらしい口実によって、まるで逆のことをドンドン宣伝するのです。
 われわれ働くものにとっては、常にわれわれの立場に立ち、真実を明らかに示し、進む道を示してくれるわれわれ自身の文化、プロレタリア文化がなければなりません。
 これまでは、各団体が別々に働いていた種々のプロレタリア文化団体が今度結合して日本プロレタリア文化連盟となったのは、ほんとに悦ばしいことです。
 その中に、働く婦人大衆のいろいろの文化的問題をとりあげて行く婦人協議会というのもあります。
 わたし達みんなの路を照らす正しい篝火《かがりび》として、日本プロレタリア文化連盟を守って強く輝しく育てなければならないと思います。[#地付き]〔一九三二年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「働く婦人」
   1932(昭和7)年1月創刊号
※「×」傍点は底本、もしくは底本の親本で伏せ字を起こした文字。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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