い。必ず、それは悪用される。現在の日本の事情では、害あって益ない出版取しまりの法律などをつくることはしないという出版綱領委員会の決定になりました。この委員会の2/3は業者の代表でした。1/3が文学者、教育家、図書館関係者でした。小林珍雄氏、日比谷図書館長、山室民子氏、わたくしなどでした。
その後、この委員会は、ひろく人を集めることをやめ、わたしの出席する場合もへり、やがて、どうなりましたでしょうか。
六、「チャタレー夫人の恋人」に関して、出版の何かの委員会がシモンされたと云われましたが(役人の言葉)その委員会のメンバーで、そのようなシモンはうけず、その委員会さえ確立していなかったと云われて居りました。
七、わたしたちは、もし公安のために、風教のために「チャタレー夫人の恋人」の関係者を起訴されるなら、それより幾千倍かの人々の不信と怒りを買っている公団の腐敗についての責任が明瞭にされることを欲します。日本の検察力を発揮しようとするならば、昨年初夏の怪死事件について、日本の検察として、明らかにするべき点を明らかにされたいと欲します。
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以上、わたくしは一人の文学者として起訴につよく反対いたします。
同時に、わたくしの心に生じている疑問について、みなさまにおきき頂きたいと思います。それは左の点です。
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一、小山書店が、「チャタレー夫人の恋人」につけた読書調査のアンケートは、こんにち小山書店が、この本の文学性を強調して、たたかうについて、果してふさわしく且つ有効なクレイムをもつものでしょうか。
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「この作品は発表にあたり全世界の物議をかもしたものであります」とだけかかれていて、問題がおこってからジャーナリズムの上に諸家がかかれているような、文学史的意義の評価、ヒューマニティーの問題としてローレンスがとらえた性のモメントは、二〇年前のヨーロッパの中流的偽善に何を投げたかという社会的意義などについて、一行も説明されていません。
アンケートの質問は、文学的[#「文学的」に傍点]であるでしょうか。
わたくしは起訴につよく抗議する者として、この点に関心をひかれないわけにはゆかないで居ります。
九月二〇日[#地から4字上げ]宮本 百合子
文芸家協会 御中
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