というのは、三人にとって何たる不仕合わせであったろう。一年の先生が日頃の親友に向って、無いんですって、と云ったそのうどんであったというのは互にとって何たるばつのわるいことであったろう。きっと、無いんですって、とさえ云ったのでなかったら、先生が生徒の親の店へ物の融通を云いつけるのはその社会で例のないことではないのだろうから、何も愧しい思いはないのだろうが、無いと云ったそのものが在る、しかもどっさり在るということは如何にも具合がわるかった。下級の先生は、むっつり顔で何か云いわけしながら五束、五年の先生にうどんをわけた。唱歌の先生へは、家を持っていないのだからと云って一束もわけなかった。
二人の先生はおすそわけにあずかったうどんを風呂敷につつんで往来へ出たが、下級の先生のやりかたに向う感情はおのずから等しくて、そこには一種の公憤めいたものもあり、傷けられた友情の痛みもあるというわけであった。
下級の先生の良人が折からその場にいあわせて、おそらく妻君のばつのよくない仕儀について何も知らなかったのだろう、しきりに唱歌の先生へもわけてお上げよと云うのに、この人はいいのよ、とがんばったというのも
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