“生れた権利”をうばうな
――寿産院事件について――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〔一九四八年一月〕
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 今日の一般の人を心から考えさせた事件だと思います。あそこに預けられた子供の率をみると去年は一躍二百余名に上り、そのうち八〇パーセントが殺されました。昨年このようにあずけられる子供の数が増えて殺された率も多かったということと、私達は政府が十一月には国民家計が三百円黒字になるといわれたことを深刻に思いあわせます。丸公が値上げになったために一般家計が窮迫しはじめたのも昨年中のことです。
 寿産院にあずけられた子供が正当な出生の子供でないということが、まるで子供が殺されても仕方がなかったというようにあげられています。しかしあの中には正当な結婚から生れた子供もいたようです。正当な子供、正当でない子供というのは子供にとってどんな区別があることでしょう。どういう男女の間から生れてもそれは人間の一人の子供であって、“生れた”という言葉は絶対にこの世に現われた子供が自分で自分を生んだの
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