してリイディングをずっと過ぎた頃、彼はそれ等の新聞をまとめて座席の下へ突込み、シガー・ケースを取出して私にもすすめた。
「至極順調に走ってるようだね」
 ホームズは窓の外を眺めながらそういった。そして時計を出して見て、
「今ちょうど速力は一時間五十三|哩《まいる》半だ」
「四分の一哩標が見えなかったようだが」
 と、私はいった。
「僕はそんなものは見やしないよ、だが、この線路の電柱は六十ヤードごとに立ってるのだから計算は極めて簡単に出来るんだ。ところで、ジョン・ストレーカ殺しと白銀号《しろがねごう》失踪事件については、もう十分知ってるんだろうね?」
「テレグラフ紙とクロニクル紙との記事は読んだ」
「この事件も探究の方法としては、新らしい証拠を求めるよりも、既に知れている些末な事実を分析し淘汰して行く方が、賢い方法かも知れぬ。今度の事件は非常に珍らしい事件で巧妙に行われ、その上多大の人々に重大な関係を持ってるものだから、いろいろと揣摩臆説が行われるんで困らされてるんだが、要するに問題は事実の骨組を、絶対に動かすべからざる事実の骨組を、諸説紛々たる報道の中から掴み出せばいいんだ。そして、そ
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