私にも大変都合がいいんですから。――実は、私はここに数千ドル何かに投資したいと思ってるお金があるんです。そこで私はそれをあなたにかけてみたいと思ってるわけなんです」
「しかしそれはどう云うわけでそうお思いになったのですか?」
私は咽喉のつまったような声で云った。
「理由ですか?――それはつまり他のものの投機をやるのと同じような理窟からです。でもその中でこれは一番安全ですからね」
「で、もしそうして下さるとしたら、私はどう云うことをしたらよいのでしょう?」
「それをお話ししましょう。――私は家を建てて、それをすっかり飾りつけて、召使いたちの給料を払って、ほうぼうへ宣伝をする、――それは私がやります。――ですからあなたはただ診察室にすわっていさえしたらいいのです。――おお小使いやその外《ほか》身の廻りのものは私がみんな心配してあげます。その代り、あなたが稼いだ四分の三を私に下さい。そしてその残りはあなたの収入と云うことに……」
ホームズさん、これが、ブレシントンが私の所へ持って来た、奇妙な申込みの条件だったのです。それから私は、彼とどんな風に取引し、どんな風に約束したかは、くどくどと申上げるまでもないことでしょう。私は次の通告節に引越していって、そして彼が初め申出たのと同じ状態のもとに、いよいよ開業したのでした。そしてブレシントン自身も、ちょうど、入院患者のような格好で、私と一しゃに住むことになりました。彼は心臓が弱く、いつも医者の監督が必要らしいのでした。――彼は一階の最上等の部屋を二部屋占領して、一つは居間に、一つは寝室に使っておりました。彼は奇妙な孤独癖の人間で、人ともあまり交際せず、外出することなどはほとんどありませんでした。彼の日常生活はむしろ不規則的でしたが、しかしただある一つのことに関してだけは、実に規則そのもののように正確でした。それは毎日夕方になると、診察室の中に這入って来て、帳簿を調べ、それから私が稼いだお金を、一ギニアについて五シルリングと三ペンスだけおいて、あとの残りはみんな持っていって、自分の部屋の中においてある丈夫そうな箱の中にしまうことでした。
さて次に商売のほうですが、少くも私の知ってる範囲では、彼がその評判を悲しまなければならないような機会は、ただ一度もなかったろうと、確信しております。それは初めから成功でした。私がその前に、病院
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